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災害時に役立つV2H。導入条件から対応車種、補助金まで疑問を解説

災害時に役立つV2H。導入条件から対応車種、補助金まで疑問を解説
被災して停電したときも家電が使える設備として注目されているV2H(Vehicle to Home)。いったい、どんなメリットがあるの? 導入にはいくらかかるの? V2Hの気になる点を、施工実績国内ナンバーワンの「株式会社JM」の小川紋さんに聞きました。

※2022年4月27日に、2022年度のV2Hに対する補助金の情報を追加しました。情報は随時更新されることがあります。
回答者
小川紋

小川紋。日産自動車が推奨する充電設備設置会社である「株式会社JM」の企画室室長。JMはV2H機器のトップメーカーであるニチコン製「EVパワー・ステーション」の設置を早くから手がけてきた

 

V2Hの機能と種類への疑問

V2Hの概念図


V2HはEV/PHEVの充電だけでなく、車から家庭へと電気を流すことで電化製品などを使うことができます。まずはV2Hの機能と種類について聞きました。

Q.V2Hを導入したら何ができる?

EV/PHVの電力を電力会社の電気代が高い時間帯や、停電時などに家で使えます。家庭用蓄電池の役割を、EV/PHEVのバッテリーが担っていると考えてください。一般的な家庭用蓄電池の容量は大型でも10数kWh前後ですが、例えば日産 リーフの駆動用バッテリーは40~60kWh。大容量なので、災害時などには家電製品を長時間にわたって使えます。

業界トップシェアであるニチコン製「EVパワー・ステーション」をはじめ、多くのV2H機器ではEV/PHEVの充電(蓄電)と家庭への電力供給がひとつのシステムで行えます。

Q.V2Hにはどんなタイプがある?

V2Hには主に非系統連携タイプと系統連携タイプの種類に分けられます。非系統連携タイプは電力会社からの系統電力と、EV/PHEVからの電力や太陽光など自家発電からの電力を切り替えて使う方式。いずれか一方の電力しか使えません。

系統連携タイプは両者の電力を組み合わせ、同時に使うことができます。現在、日本で使われているほとんどのV2Hが系統連携タイプです。

V2Hのメリット・デメリットへの疑問

充電中のホンダ e


災害時に役立つV2Hですが、メリットはそれだけにとどまりません。そこで、災害時と日常時それぞれのメリットなどについて質問。併せて、V2Hのデメリットも聞きました。

Q.災害時におけるV2Hのメリットは?

災害などで電力会社からの電気が途絶えてしまったときでも、EVやPHEVに電力が残っていれば家の電化製品を使えます。どの程度の時間、どんな家電を使えるかはV2H機器の性能、車のバッテリー容量と電力残量によって異なります。

例えば4人家族の場合、1日あたりの平均的な電力消費量は10kWh前後(春・秋)といわれているので、40kWhのEVが満充電なら数日間は過ごせる計算となります。さらに、太陽光発電設備がある家なら、停電時でも太陽光パネルで発電した電力でEV/PHEVに充電したり、家電を使ったりできるので、より安心感が高まります。

Q.実際にどんな災害でV2Hは役立った?

ご利用いただいたお客様から「災害発生時に役立った」との声を数多くいただいていますが、中でも2019年に発生した令和元年東日本台風では大きな反響がありました。

大規模停電が続く中でEV/PHEVとV2Hが活躍し、被害地域でも電源を確保。猛暑下での災害・停電発生だったので「エアコンや冷蔵庫などの家電を使えて助かった」と仰る方もいらっしゃいました。

Q.日常におけるV2Hのメリットは?

電気代が高い時間帯にEV/PHEVの電力を使うことで節電、いわゆるピークカットにつながります。太陽光パネルが設置されている家なら発電した電力をEV/PHEVに蓄電もできます。実際、当社のお客様の約8割が太陽光発電と連携するタイプのV2Hを選んでいます。

さらに、多くのV2Hに備わっている6kW充電機能もメリット。EV/PHV充電用コンセント(3kW)の約半分の時間で充電できます。

Q.V2Hを導入した人の反応は?

多くのお客様から大変満足いただいています。参考までに、当社に寄せられた感想を紹介します。

【お客様の声1】
令和元年東日本台風発生時、数日間停電が続いていた中で照明、エアコン、冷蔵庫、スマートフォンの充電などができ、普段とほとんど変わらない生活を送ることができた。家族だけでなく近隣住民を招いてコンセントや冷蔵庫を使ってもらい、とても喜ばれた(千葉県・個人)

【お客様の声2】
停電時にも太陽光パネルで発電した電気とV2Hを使ってオフィスを稼働させ、近隣住民にも電気を使ってもらうことを目的として会社に導入。何かあっても電気が使える安心感がある(茨城県・自動車販売業)

Q.V2Hのデメリットは?

V2H導入によるデメリットはありません。強いて挙げるなら、導入費用がまだまだ高価なことです。コスパを考えると家庭用蓄電池を導入するよりリーズナブルですが、そもそもEV/PHEVを持っていなければ使えません。工事費用も幹線(自宅の分電盤と電柱をつなぐ太い電線。契約容量の変更時に張り替えが必要)の工事などを行うと、高額になる場合があります。

また、今後もV2H対応のEV/PHEVに乗り続けるなら問題ありませんが、ガソリン車などに乗り替えるとV2H設備自体が無用となってしまいます。V2Hの購入は長期的に考える必要があるのです。

V2H導入条件への疑問

V2Hにも対応する三菱 アウトランダーPHEV


V2Hを導入しようと考えている人にとって、どんな車と家で利用できるかはやはり知りたいところ。約3,000件の施工実績を誇るJMさんに、V2H導入時の注意点について教えてもらいました。

Q.V2Hを利用できるEV/PHEV?

ニチコン製のEVパワー・ステーションであれば主に日産 リーフ、トヨタ プリウスPHV、三菱 アウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEV、ホンダ Honda eなど、国内メーカーの計10車種がV2Hに対応しています(2022年1月5日時点)。

最近は輸入車でもEV/PHEVが少しずつ増えてきましたが、V2Hに対応している車種は今のところありません。また、国産EV/PHEVでもRAV4 PHVのようにV2H非対応の車種もあります。詳しくは ニチコンのサイトで確認ください。

Q.中古のEV/PHEVでもV2Hを利用できる?

V2Hに対応している車種なら、中古車でもV2Hを活用できます。中古のEV/PHEVは充放電、経年により駆動用バッテリーの蓄電可能容量が低下している可能性があり、家庭で使える電力も若干少なくなってしまいます。しかし、系統連携タイプのV2H設備なら他の電力で補完するため、使用には問題ありません。

コストを抑えたいなら「中古で格安のEVを購入。そのうえでV2Hを導入し、日々の電気代を節約する」という方法が有効でしょう。

日産 リーフに充電する
 

Q.オススメのV2H機器は?

実は、現在の日本で販売されているV2H機器のシェアNo.1はニチコンの「EVパワー・ステーション」です。同製品は「スタンダードモデル」と「プレミアムモデル」の2機種をラインナップ。最大の違いは停電時の給電能力です。

プレミアムモデルは停電時でも通常時と同じように6kW未満・100V/200V出力対応の給電を行えます。しかし、スタンダードモデルは3kW未満・100V出力対応です。

エアコンなど200V仕様の家電がある場合はプレミアムモデルを選んでおくと安心です。また、停電時に太陽光発電設備からV2Hに電力供給できるのもプレミアムモデルだけの機能。当社のお客様も、約8割がプレミアムモデルを選んでいます。

Q.V2H機器はどんな家なら設置できる?

これまで設置工事に苦労したことはあっても、基本的にどんな家でも設置できます。V2Hを置ける場所がある住宅であればおおむね設置に問題ありません。ただ、マンションなど集合住宅の場合、設置に際して管理組合による住民の合意が必要です。

Q.V2H導入にはどんな工事が必要?

V2Hを設置するには、必要に応じて強度計算などを綿密に行ったうえで、家の壁に配線を通すための穴を開ける工事が必要です。その他、配線・配管の敷設、V2H機器の設置などの屋外工事と、専用ブレーカーや分電盤の設置などの屋内工事を行います。

場合によっては、電力会社との契約電気容量を変更したり、再生可能エネルギー100%の電力契約に切り替えたりすることもあります。

V2H導入に関するお金の疑問

走行中のPHEV


V2Hの初期費用はどれくらいかかる? 補助金は使えるの? 気になるV2H導入にかかるコストについて聞いてみました。

Q.V2H導入の費用はどのくらい?

ニチコンのEVパワー・ステーションの場合、製品代はスタンダードモデルで43万7800~49万2800円、プレミアムモデルで87万7800~88万1100円(沖縄離島向けモデルを除く)。

工事費用が別途かかり、製品の種類や太陽光発電の有無、分電盤からV2H機器までの距離、住宅の構造などによって費用が異なります。当社の場合、基本工事価格はスタンダードモデルで28万500~39万500円、プレミアムモデルで30万2500~41万5800円と設定しています。 さらに、設置場所の事前調査で幹線の張り替えやブレーカー交換など追加工事が必要と判断された場合、追加料金が発生します。詳しくは当社のHPにて、ご確認ください。

Q.V2Hの導入費用が高くなるケースは?

電気の契約容量を大きく変更する必要がある場合、同時に幹線の張り替え工事やブレーカーの交換、増設などが必要になります。そういったケースでは10万~20万円の追加工事費用がかかることもあります。

また、V2H機器の設置場所から分電盤までが遠い場合や、鉄筋コンクリート造など家が頑丈な造りの場合も、追加工事費用が高くなる傾向にあります。配線を延長する工事、建物の強度に影響が出ない壁面貫通工事などが必要になるからです。

Q.V2H導入で利用できる補助金は?

2022年1月5日現在、V2H機器の購入や設置工事に対して出る国からの補助金はすべて受け付け終了。残念ながら利用できるものはありません。

ただ、2021年度は「令和2年度第3次補正CEV補助金」として、経済産業省の「令和2年度第3次補正予算クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金」もしくは環境省の「令和2年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」を受けることができました。2022年度も補助金が設けられる可能性は十分にあります。

参考までに2021年度に受けられた補助金額を言いますと、V2H機器本体購入費用は最大でおよそ半額、設置工事費用も最大40万円まで補助。車に対する補助金額は経産省と環境省で異なり、EVの場合は経産省が60万円、環境省が80万円でした。ただし、環境省の補助金は電力会社との契約を「再エネ100%電力調達」に切り替えることが必須でした。

2022年度もV2Hの補助金が給付されることになりました。経済産業省では、令和3年度補正予算の「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」と令和4年度予算の「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」を実施しています。両者ともEVやPHVなどの購入費を、後者はV2H充放電設備などの導入に対する費用を一部補助してくれます。

SII(一般社団法人環境共創イニシアチブ)からは「DER補助金」と「DP補助金」を受けられます。これらはSIIが行う実証実験の参加者を対象に、V2H機器の購入と設置を補助金。実験への協力費も給付されます。事業者だけでなく、個人も参加申請できます。

他にも、クリーンエネルギー自動車(CEV)やV2Hに対して補助金を用意している自治体があります。ただ、申請の有無や期間、条件は自治体によって異なります。自分が住んでいる自治体に問い合わせてみるといいでしょう。

▼経済産業省による補助金の詳細はコチラ
令和3年度補正予算「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」・令和4年度予算「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」

▼SIIによる補助金の詳細はコチラ
DER補助金(令和4年度 分散型エネルギーリソースの更なる活用に向けた実証事業)
DP補助金(令和4年度 ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業」

Q.V2Hの補助金を受けるための条件は?

補助金の条件や金額は製品や工事の種類ごとに細かく設けられており、申請手続きも複雑。個人で行うのは非常に難しいでしょう。専門的な知識が必要ですので、補助金の申請代行手続きを行っている会社に依頼するのが現実的だと思います。

また、令和2年度第3次補正で拠出された補助金はEV/PHEVの新車購入とV2H機器の新規設置を同時に行った個人に対するもの。中古車が対象だったりV2H機器単体で申請できたりする、個人向けの補助金は2021年度はありませんでした。ご留意ください。

Q.V2Hの補助金申請で気をつけるべき点は?

EV/PHEVを購入するタイミング、V2Hを設置するタイミングには注意が必要です。EV/PHEVの購入後に補助金を申請し、交付が決定した後にV2Hを発注。そこから工事を開始する必要があるため、設置までには時間を要すからです。

また、2021年度の例でいうと経産省と環境省、いずれの補助金も予算が消化され次第、申請の受け付けが締め切られていました。補助金を受けたいなら、自分で申請するにしろ業者に代行を依頼するにしろ早めに行動するのがベターです。

V2Hを導入しようかなと思ったら、施工業者に相談すると良いでしょう。

CREDIT
協力: 株式会社JM
写真: 日産、ホンダ、三菱、Adobe Stock、photoAC
文: 田端邦彦(ACT3)