週末に訪れる大人の秘密基地

イタリア語で自動車を意味する「macchina 」と名付けられた物件は貴重な愛車を保管し、そして堪能するためだけに存在する家だ

自宅に収まりきれない愛車のために建てた家

たとえ自動車マニアではなくても、この「車庫」を見れば唸るはずだ。そう、この建物は1棟まるまる「車庫」なのである。一見すると(もちろん車庫には見えないが)、一般住宅というよりも画廊やアトリエ、スタジオのような雰囲気。どこか芸術や文化の香りが漂う佇まいである。

施主のWさんは、筋金入りのコレクターだ。ここに収められているモデルだけでもフェラーリ365BB、同デイトナ、ランボルギーニ400GT2+2、オースチン・ヒーレー。自宅を含むほかの場所には、クラシック・メルセデス数台のほかに日常の足としてE300(W211)やポルシェ911(タイプ996)などが勢揃いしているという。

「 もう止まりませんよね」と苦笑するWさん。そもそもこの車庫を作ろうと思い立ったキッカケが面白い。「いつも修理工場を出たり入ったりしていたのですが、あるとき手を入れるところがなくなってしまったんです。じゃ、建てるか…と(笑)」なんとも大らかな話ではないか。設計を担当したのは建築家の竹田和正さん。とくに苦労した点は?「 ここに住むわけではないので細かいオーダーはなく、とにかく車が綺麗に見えることが条件でした」

その結果生まれた贅沢な車庫は、車たちをさまざまな角度から観察できる。正面のシャッターを開ければ実際の寸法以上に奥行きが感じられる。効果的にあしらわれた間接照明により、まるで洞窟のような深さを感じさせるクールな空間に仕上がっているのだ。

シャッター横に設けられた玄関に続く階段は、まさに異空間への入口。階段を登り2階にたどりつくと、すぐ右手にBB。その後ろにはデイトナが鎮座している。グレーチングのフロア越しに見下ろせるのはヒーレーとランボの2台。まるでサンダーバードの基地のような、独特の世界観をもっている。静謐な空間に身を置きながらも、男ならアドレナリンが沸き立つことが意識できるはずだ。

不自由なこともある。たとえば現状でBBを出すときには、ヒーレーとランボを出したのちにリフトを降ろしてデイトナを出し、空のリフトを上げてBBを乗せてからまた降ろす…というプロセスが必要。さらに、12気筒エンジンを搭載した猛者たちは、想像以上のサウンドを奏でる。「 早朝や深夜は出し入れできません。真夏も真冬も…」

と苦笑するWさんだが、そんなフツーの人間には面倒臭い作業も「儀式」として楽しんでいるに違いない。

macchina
建築家:一級建築士事務所ageha.

tel.03-6904-3515 http://www.ageha.ch/
所在地:東京都中野区 主要用途:専用住宅
構造:鉄骨造 規模:地上2階 敷地面積:91.42㎡ 延床面積:114.80㎡
設計・監理::一級建築士事務所ageha./竹田和正、山上里美

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・茂呂幸正 photos / MORO Yoshitada

愛車を眺める場所としてリビングを2階に配置。その奥にはキッチンやトイレがあり、住宅として必要最低限の設備は整えられている

外部階段を上って中2階の玄関をくぐると、リフトで上げられたBBやデイトナが出迎える

狭い土地に4台の愛車を収めるために、リフトを使って無駄なスペースをなくしている。愛車を載せたリフトを昇降させる様子は、サンダーバードなどSFモノのワンシーンのようだ

4台の車が入ること、住むことを考慮する必要がないの事でスタイリングを追求。外観も美しい仕上がりとなった