▲懐かしい車にたくさん出会うことができご満悦のBoseさん。子供の頃にご両親が乗っていた車もありました。蕎麦を食べながら「妄想TIME」へ突入! ▲懐かしい車にたくさん出会うことができご満悦のBoseさん。子供の頃にご両親が乗っていた車もありました。蕎麦を食べながら「妄想TIME」へ突入!

今、80年代の“普通の車”が若い子から注目されている!

日本のヒップホップシーン最前線でフレッシュな名曲を作り続けているスチャダラパーのMC、Boseが中古車情報誌『カーセンサー』にてお届けする人気連載「Bosensor」。カーセンサー本誌で収録しきれなかったDEEPでUNDERGROUNDな話を編集部員ペリーと一緒にお届けっ!!

今回はマルミオートにお邪魔した記事(関連リンク参照)の後編です。

Bose:今回はまさかの初代シティターボと出会うことができたからね。自分が若い頃に好きだった車に巡り合う。中古車選びでこれほど幸せなことはないなあ。

編集部ペリー(以下、ペリー):時代を感じますね。自分も学生時代を思い出しましたよ。アレ、友達が乗っていたヤツだ! とかね。

Bose:だよね。でもさ、マニアックな中古車を扱うお店って、ある車種に特化した個人経営の小さなところをイメージしてたけれど、今回お邪魔したマルミオートは特定の車種にこだわらない大規模店っていうのが驚いたよね。

▲セラ、CR-X、ジェミニ、MR2……80年代~90年代初頭に若者たちを熱狂させた車が所狭しと並んでいた。大好物の車種群にBoseさんはあれこれ目移りしていた ▲セラ、CR-X、ジェミニ、MR2……80年代~90年代初頭に若者たちを熱狂させた車が所狭しと並んでいた。大好物の車種群にBoseさんはあれこれ目移りしていた

ペリー:大規模店だと普通はすみっこにマニアックなやつが少し並んでいるくらいで大半は売れ筋を展示しているけど、今回は8割以上が80~90年代の激アツモデルでしたもんね。Boseさん、興奮したでしょ?

Bose:もうね、すごすぎて本誌のBosensor用にどれを選んだらいいか迷っちゃったよ(笑)。

ペリー:展示場を何往復もウロウロしていましたもんね。たぶん決められないんだろうなって笑ってたんですよ。

Bose:興奮しちゃった(笑)。でも今回いろんなモデルを見て気づいたことがあるんだ。

ペリー:なんすか?

Bose:車好きって国産でも輸入車でも、つい特別なモデルばかり注目しちゃうじゃん。僕だったらジウジアーロとか、ロードスターとか。それって元々の人気やデザイン、走りの良さが理由なんだけど、もう一つ、車が持つヒストリーも無意識のうちに意識していると思うんだよね。

ペリー:あぁ、何となくわかりますわ。それ。

Bose:でも今回シティと同じくらいいいなと思ったのが、B12型日産 サニーだったんだよ。サニーの歴史は長いし60~70年代はモータースポーツでも活躍したけれど、はっきり言って80年代はごくごく普通のファミリーカーでしょう。当時は車好きが振り向く車じゃなかったと思うんだよね。それこそ車に興味がない僕の親せきや親父が乗ってたくらいだから(笑)。

▲サニー、そして初代シビックもBoseさんの実家にあった車(RSじゃないですが)。「これに家族5人乗ってドライブしてたってすごいよね。でもそれが普通だったんだよ」 ▲サニー、そして初代シビックもBoseさんの実家にあった車(RSじゃないですが)。「これに家族5人乗ってドライブしてたってすごいよね。でもそれが普通だったんだよ」

ペリー:あれ? 確かお店にあったシビックも実家で乗ってたって言ってませんでした?

Bose:乗ってたよ。今日のお店は僕に幼少時代の記憶を思い出させたね。で、何が言いたいかというとさ、そういう普通の車が時を経て今、めちゃめちゃオシャレになってるってこと。

ペリー:簑島社長(マルミオートの社長)が言ってましたけど、サニーは20代の子たちからの問い合わせが多いんですって。どうやら若い彼らは今どきの車は丸っこくて嫌で、スクエアな車を探していたらサニーに出会ったと言っているらしいです。

Bose:それって個性的なものに乗って車がある暮らしも自分流にしたいっていう感覚だよね。僕ら世代が20代後半でボルボ 240、あるいはセドリックバンなんかに走ったのと同じ発想だよ。車がどんどん流線形になってきて、みんなと同じじゃ嫌だからってそのあたりに目を向けたもんね。

ペリー:求めているものは、走りじゃなくてオシャレなスタイルなんですね。

Bose:僕の奥さんも最近「四角いセダンが好き」って言いだしているんだよ。そうなると車がないから昔のBMW 3シリーズ(E30やE36)が欲しいとか言うの。サニーを見せたら盛り上がる気がするもの。

当時の“頑張った”デザインは今だとダサくて逆にカッコいい!

ペリー:サニーも良かったですけど、シティも最高でしたね。

Bose:今の40~50代にとってシティは本当にエポックメイキングな車だったじゃん。小さな車は背が低くて色も数種類しかないっていうのが当たり前だったのに、突然背が高い車が出てきて、カブリオレは10種類以上ボディカラーが用意されたんだよ。コマーシャルも外国で撮ったカッコいい映像を流すのではなくマッドネスが「ホンダホンダ……」って踊っているんだから。当時中学生の僕も真似してたし。すべてが衝撃的で意味も分からず「乗りたい!」って思った。

ペリー:トランクに入るモトコンボ、あれ欲しかったな。

Bose:「車とバイクがセットってスゲエ!」ってね(笑)。僕は20代でシティカブリオレに乗ったし、今回あらためてシティターボに乗らせてもらって、シティは走りを含めた車の空気感が最高に楽しいんだなって思ったよ。

▲Boseさんは20代でシティカブリオレを購入。20年の時を経て再びシティと出会い、「やっぱこのサイズ感がいいんだよ!」と大興奮!! ▲Boseさんは20代でシティカブリオレを購入。20年の時を経て再びシティと出会い、「やっぱこのサイズ感がいいんだよ!」と大興奮!!

ペリー:Boseさんはシティのシートに悶絶してましたね。

Bose:あれ、最高! 今は軽自動車でもシートを上品な仕立てにするじゃない。一方で、シティのシートバックには大きく“TURBO”って書いてあるの。もちろんシティのシートもバケットタイプだし当時としては人気のデザインだったはず。でもデザインを主張しすぎるとある一定期間を越えるとカッコ悪く見えちゃうものが多いんだよね。シティのシートは10年前に見たら「ダサ……」と感じたかもしれないけれど、一巡して逆にいい感じじゃんって思ったよ。

ペリー:Boseさんが「renomaの座椅子みたい」と叫んでいるの聞いて、社長が爆笑してました。

Bose:他にもトランク内にリアサスペンションのブッシュがむき出しになっているのも、10年くらい前に見たら「なんだこれ……」って思ったかもしれないな。今は「潔い!」って感じたけれどね(笑)。

ペリー:ターボII以外のシティ、サニーなど“普通”だった80年代の車はマニアが残しておこうとしなかったから、台数が極端に少ないんだって社長が言ってました。

Bose:輸入車なんかもそうだけれど「いつか買えるだろうな」と思っていた古めの車がどんどん買えなくなっているもんね。

ペリー:あの時代の車を普通に買おうと思ったら今が最後のチャンスかもしれないですね。

Bose:僕が80年代から90年代初頭までの車に乗って感じるのは、走っていて体感する風景の違い。実際の景色は変わらないんだけど、たぶんフロントガラスの立ち方やピラーの太さなんかが違うから、どこか昔を思い出してジーンと切ない気分になってくるんだよね。でも非力な車をMTで目いっぱい走らせる運転が楽しい。ある種のノスタルジーかもしれないけれど、今の車では絶対に味わえない感覚なんだ。きっと誰もが1台くらいは“あの頃好きだった懐かしい車”っていうのがあるはず。今回訪れたような店に顔を出してみて回想に浸るのも悪くないよね。

text/高橋満(BRIDGE MAN)
photo/奥隅圭之