▲これが謎のモデル、グシオ。ベースは先代フィアット ヌオーバ500(NUOVA 500)で、屋根を切断し2シーターのスポーツモデルに架装されています ▲これが謎のモデル、グシオ。ベースは先代フィアット ヌオーバ500(NUOVA 500)で、屋根を切断し2シーターのスポーツモデルに架装されています

ネットで調べてもカーセンサーのページ以外に情報が一切ない!?

日本のヒップホップシーン最前線でフレッシュな名曲を作り続けているスチャダラパーのMC、Boseが中古車情報誌『カーセンサー』にてお届けする人気連載「Bosensor」。カーセンサー本誌で収録しきれないDEEPでUNDERGROUNDな話をお届けっ!!

ゆきだるま:Boseさん、初めまして。今日のお店も楽しみですね!

Bose:あれ? 今日はペリーじゃないの?

ゆきだるま:ペリー先輩バックれちゃって(笑)。今回から私が担当します。よろしくお願いします。ところで、Boseさんはいつもどうやって車を探してるんですか?

Bose:みんなもカーセンサーnetを見るときにいろいろな検索条件を設定して車を探すでしょう。僕も同じ。ただ、中古車を年式の古い順に並べ替えてみるの。すると懐かしい車、変わった車、そして今回のように見たことも聞いたこともない車が出てくることが多いんだよ。

ゆきだるま:ほんと、今回の車はなんなんですか? グシオって聞いたことないです。予備知識を入れておこうと思ったのに全然わからなくて……。

Bose:実は僕もいろいろ調べたけれど、どう検索してもカーセンサーに掲載されているこの車しか出てこないんだよ。だから予備知識は一切なし。インターネットが浸透してどこにいてもスマートフォンで世界中の情報が瞬時に手に入る時代なのにどうにもならない。ある意味これってすごいことだよ。だから直接お店に行ってみないと!

ゆきだるま:確かに、ぺリー先輩からも「ネタは指先ではなく自分の足で探せ」って言われました。

Bose:さらに不思議なのがこの車を置いているのが変な車ばかり集めたお店じゃなくて、普通の車を扱っているお店なんだよ。ますます気になるよね。

普通の車を扱う中古車屋さんで見つけた激レアモデル

細谷社長:Boseさん、おはようございます。お待ちしていました。

Bose:おはようございます。会っていきなりですが……このグシオってなんなんですか? 見た感じは『ルパン三世 カリオストロの城』に出てくる先代フィアット 500っぽいけれど

細谷社長:わざわざ店まで足を運んでもらったのに申し訳ないのですが……。実は僕もよくわかっていないんです。たまたまオークションに出品されて、あまりにも珍しいので飛びついてしまったんです(笑)。グシオというのもオークションに出ていたときの名前で、グレード名が650スポーツでした。

▲オークションでグシオに一目惚れしたという細谷社長(左)。まだ29歳という若さです! ▲オークションでグシオに一目惚れしたという細谷社長(左)。まだ29歳という若さです!


Bose:なんか予想外の展開だぞ。扱っているお店すらこの車のことがわからないってことがあるんだ。ネットでいくら情報を探しても出てこないわけだよ。

細谷社長:メーターが交換されているので年式や走行距離も不明でして……。わかっているのはフィアット 500をベースにカスタムされていることだけですね。でもベース車がまだパーツがあるものなので、整備面は問題ないです。

Bose:先代フィアット 500は今もたまに見かけるもんね。ところで社長、この車のことをいろいろ聞く前に確認しておきたいことがあるんですが……カーセンサーを見る限り、こちらは特殊な車を扱うお店ではないですよね?

細谷社長:そうですね。扱っているのは軽の1BOXや軽トラックが多いです。あとはスズキのディーラーもやっているので新車も扱っています。

Bose:なのに店の裏側に置いてあるビンテージな車はなんなの? 僕の大好物だらけなんだけど!!!

細谷社長:あれですか? うちは敷地に余裕があるので、僕の店以外に父がやっている中古車販売店やレッカー会社、親せきが営む解体業が同じ敷地にあるんです。裏にあるのは僕や父がいろいろなところで見つけてきた車です。ただ、まだプライスボードは付けていないんですよ。とくに父が見つけてきたものは半分趣味も入っていて(笑)。

Bose:一口に中古車販売店と言っても本当にいろんな形があるんだなあ。売り物ではないということだけど、せっかくの珍しい車だからカーセンサーを見てくれている人に紹介してもいいですか?

細谷社長:もちろん構いませんよ。それが終わったらぜひグシオにも乗ってみてください。

Bose:ぜひ乗せてください! じゃあまずケンズファクトリーで見つけた懐かしの国産車を見ていこう!!!

ホンダ初期の四輪車がたくさん! おじさん世代にはたまらないでしょう!

ホンダ N360

▲1967年にデビューしたN360は、わずか1年半で累計生産台数が30万台に達した大ヒットモデル。日本初のサンルーフ搭載車でもあります ▲1967年にデビューしたN360は、わずか1年半で累計生産台数が30万台に達した大ヒットモデル。日本初のサンルーフ搭載車でもあります


「Nコロ」という愛称で呼ばれたN360。今見てもめちゃめちゃかわいいよね。本格的に四輪自動車を作り始めてから初代シティが出た1980年代前半までのホンダはとにかくデザインがいい!

N360の「N」はNIPPONを意味するともいわれていて、ホンダの軽自動車のNシリーズはN360から来ている。コマーシャルはNew Next Nippon Norimonoだもんね。N-ONEのフロントデザインはN360をモチーフにしているのも有名な話。N-ONEもライトとグリルが特徴的だけど、本物を見るとやっぱりこっちがよく見えるなあ。

もしかしたら当時のデザイナーはミニとかを意識したのかもしれないけれど、本当にデザインの仕方がうまい。遠くからだと直線的なんだけど、間近で見ると曲面をいい具合に使っているんだよね。日本的な繊細さを感じるな。


ホンダ ライフ(左)& ホンダ S600(右)

▲S500の後を受けて1964年から製造が始まったS600(右)。搭載される直4エンジンは8500回転で最高出力57psを発揮します。第一世代のライフは1971年に登場 ▲S500の後を受けて1964年から製造が始まったS600。搭載される直4エンジンは8500回転で最高出力57psを発揮します。第一世代のライフ(左)は1971年に登場


すごい、エスロクだ! かなりそそるデザインだよね。ただ実際に乗るとなるとハードルはかなり高い。僕らの上の世代のお金持ちが優雅に楽しんでいるイメージかな。でも実は僕が住んでいる鎌倉で若い子がこれに乗っているのをたまに見かけるんだ。相当な変わり者だよ。嫌いじゃないけど(笑)。

そしてライフは今回見つけた中で一番好き! これを今の時代でも普通に乗れるようにできたら最高なんだけど。スタイルはこのままでエンジンを今のものにしてエアコンも利くようにできたら子育て世代にとって最高の1台になるのに。

(ここで車の持ち主である細谷社長のお父さんが登場!)

お父さん:Boseさん、ライフ好きなの? せっかくだからエンジンかけてみますか?

Bose:マジ!? ぜひぜひ!!

お父さん:まずはチョークを引いて、アクセルを軽く踏みながらセルを回して……。

Bose:おお! かかった(笑)。昭和の音!! きっと昔はみんなこれくらいドキドキしながらセルを回していたんだろうね。

細谷社長:「頼む、かかってくれよ」と祈りながらね(笑)。

Bose:乗るたびにドキドキするのっていいよね。今じゃそんなドキドキ味わえないから。僕が乗っていた初代シティがドキドキの最期だろうな。それにしてもこのライフはかなりスポーティですね。

お父さん:これは1972年に追加されたツインキャブ搭載のツーリングという上級モデルです。インパネの3連メーターは後付けですね。

▲インパネの雰囲気がスポーティなライフ。室内はかなりキレイで、先代オーナーが大切に乗っていたことが伝わってきます ▲インパネの雰囲気がスポーティなライフ。室内はかなりキレイで、先代オーナーが大切に乗っていたことが伝わってきます


Bose:ちょっと後ろにも座ってみていいですか? おっ、思ったとおり後ろもかなり広いよ。大人2人でも余裕。やっぱりこのパッケージングの車が今あったら、子育て世代は豊かに暮らせると思うな。それにしても……灰皿が前にひとつと後ろにふたつ。こんなに狭い車内でどれだけモクモクしてたんだろう(笑)。このあたりが“時代”を感じる部分だね。

▲「後ろがね、想像以上に広い! 家族でも十分使えるよ」とライフを絶賛するBoseさん。運転席の背もたれを起こしても窮屈ではないそうです ▲「後ろがね、想像以上に広い! 家族でも十分使えるよ」とライフを絶賛するBoseさん。運転席の背もたれを起こしても窮屈ではないそうです


ホンダ T360

▲1963年にデビューしたホンダ初の四輪自動車、T360。2人乗りの軽トラックで、エンジンがシートの下にあるキャブオーバータイプ ▲1963年にデビューしたホンダ初の四輪自動車、T360。2人乗りの軽トラックで、エンジンがシートの下にあるキャブオーバータイプ


Bose:T360って初めて見た! しかもこのナンバープレート、完全に当時のものじゃないですか。博物館レベルの車じゃん!

お父さん:T360はねえ、エンジンがいいんですよ。ツインカム4キャブで1万回転回るから。この車は純正のタコ足(エキゾーストマニホールド)で、オーバーホールも終えて絶好調。ボディはノーレストアです。昭和40年(1965年)式でドノーマルですから。

Bose:博物館のレベルを超えているなあ。お父さん自慢の車ですね。

細谷社長:しかもこれ、実はうちの社用車なんですよ。今でも普通にタイヤを積んで走っています(笑)。

Bose:マジで! すごい話だなあ。だからドアのところに大きく社名が入っているんだ。


ミツオカK-2

▲レトロな雰囲気の車を生み出すことを得意とする光岡自動車が1998年に発売したマイクロカーシリーズのK-2。50ccエンジンを積み、大人1人が乗車できます ▲レトロな雰囲気の車を生み出すことを得意とする光岡自動車が1998年に発売したマイクロカーシリーズのK-2。50ccエンジンを積み、大人1人が乗車できます


Bose:何これ? 見た目はメッサーシュミットっぽいけど……。

細谷社長:ミツオカのK-2というマイクロカーです。50ccの1人乗りですがかなりしっかりできていますよ。

Bose:マイクロカーって今まで気にしたことがなかったけれど、カワイイのもあるんだね。

細谷社長:ちなみにこれは売り物です(笑)。

ゆきだるま:あの……ちょっといいですか? Boseさんがはしゃいでいるからグシオに乗せてもらう前にスペースがなくなっちゃったんですけど……。

Bose:マジか(笑)。でもこれだけの車を見せられたらはしゃぐなっていう方が無理だよ。じゃあケンズファクトリーの後編はグシオへの試乗からスタートしよう。他にも社長とお父さんに突っ込んでみたいことがいくつもあるからね。お楽しみに!

text/高橋 満(BRIDGEMAN)
photo/篠原晃一