waltz▲カセット専門店「waltz」オーナー、角田さんのインタビューもいよいよ後編。ドライブにオススメのカセット第3弾も紹介していただきます!

ネオクラ車ならカセットを聴きながらドライブを楽しめる

カーセンサー6月号(2021年4月20日発売)では、ネオクラ世代といわれる80~90年代の車たちを特集しています。そんなネオクラ車でのドライブをより楽しませてくれるアイテムが、標準カーステレオのカセット

そこで、ドライブにうってつけのテープを探しに、おそらく日本で唯一の専門店「waltz」に引き続きお邪魔しています。

角田 太郎

カセット専門店「waltz」オーナー

角田 太郎

1969年、東京都生まれ。CD/レコードショップ WAVE渋谷店・六本木店でバイヤーを経験後、2001年にアマゾン・ジャパンに入社。音楽、映像事業の立ち上げに参画。その後、書籍事業本部商品購買部長、ヘルス&ビューティー事業部長、新規開発事業部長などを歴任し、2015年3月に同社を退社。同年8月に東京・中目黒にカセットテープやレコードなどを販売するビンテージセレクトショップwaltzをオープン。また、様々な企業や店舗、イベントなどのための選曲を行う他、同ショップは、2017年12月、Gucciがブランドのインスピレーション源になった場所を紹介するプロジェクト「Gucci Places」に日本で初めて選出された。
 

竹井あきら

インタビュアー

竹井あきら

自動車専門誌『NAVI』編集記者を経て独立。雑誌や広告などの編集・執筆・企画を手がける。プジョー 306カブリオレを手放してから次期愛車を物色しつつ、近年は1馬力(乗馬)に夢中。

「あえて」の先の世界

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竹井 前回、カセットを知らない若い世代にとってはもちろん、中年以上の世代にとってもカセットが新鮮で新しい音楽体験だということを伺って、このお店に入ったときに感じた「かつて親しんだもののはずなのに懐かしくない」という不思議な感覚の理由が分かった気がします。

角田 「懐かしい」っていうワードは結局、今の価値観でとらえてないんですよ、そのモノを。当時で止まっている感性なんです。今これが聴きたい、今これがヤバいって思う人からは、「懐かしい」って言葉は出てこない。実際に、うちに来て「懐かしい」って口にする人は絶対に買い物しない人です(笑)。
 

竹井 (笑)。店主としてリアルな言葉ですね。

角田 だから車も同じだと思いますよ。80年代の車を見て「懐かしい懐かしい」っていう人は、イベントにでも行って眺めてればいいだけで。本当にお金払ってそれに乗りたいって人は、ノスタルジーで惹かれてるわけではないんです。
 

waltz▲2004年に出版されたアートブック「Mix Tape: The Art of Cassette Culture」。当時すでに音楽メディアとしてのカセットは過去のものになっていたが、新たにカルチャーとして光を当てた一冊

竹井 車でいうとネオクラは趣味性がありながら、比較的価格がこなれたものも多いので、趣味の車入門としてもいい立ち位置だと思います。

角田 まず、ハードルの低いものをというのは、ありますね。例えば、うちで出している6万円するラジカセなんて、ビンテージカーみたいなものですから、免許取っていきなりは手が出せない。若い子たちはみんな、最初は軽自動車や安い中古車から始めるみたいに、ウォークマンから入るんですよね。

竹井 ウォークマンは『エヴァンゲリオン』でも目を引きましたし、持ち歩いてちょっと自慢するにもいいですしね。価格と趣味性という点で、たしかにネオクラ的です。
 

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角田 現行で流通してる安いラジカセは、家電量販店でたぶん5000円くらいで売っていて、デザインもそこそこかわいかったりするんですけど、音がびっくりするくらい悪いんですよ。クオリティでいうと昔のものの方が良くて、現行品は明らかに下がってるんです。そこは車と違うところでしょうか。

竹井 車の何をしてクオリティというかにもよりますけど、「最善か無か」というスローガンの下に作られた時代のメルセデスやバブル期の日本車のように、現行モデルでは考えられないような開発コストがかけられていたり、異常に豪華装備のものがあったりっていう共通点もありますね。

そういえば、数年前にGucciがインスピレーションを得た場所を認定する「グッチプレイス」にここwaltzが登録されたというのも、まさに「今」に敏感なファッションの世界で価値が認められたっていうことですよね。
 

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角田 「グッチプレイス」は想像もしてませんでした。最初はもうなんのことやら、僕グッチとか興味もなかったんで。今世界で20ヵ所くらい選ばれてるんですけど、イタリアは庭園とかフランスはお城とか重要文化財みたいな中で、日本はうちなんですよ。

僕がこの店を作って最初の2年間はSNSもやってなかったですし、通販も宣伝広告も一切やらなかったんですが、かなり早い時期にGUCCIの目に留まった。本当に住宅街の中の、この店だけでやってたんです。

竹井 それは、あえて?…… ちょうどすぐ横のポスターにも大きく「DARE!」(=あえて)ってありますけれど。
 

waltz▲レジの横に掲げられているヒューマン・リーグのアルバム「DARE!」のアートワーク

角田 これ別に僕がヒューマン・リーグ好きなわけではなくて、うちのスローガンとして貼ってるんです。あえてやってるっていう。このデジタルミュージックが主流の世の中で、音楽のフィジカルメディアを実店舗で売るなんて、だれが考えたって成り立たないビジネスの典型みたいなものですよ。でも、そんなこと百も承知のうえで、あえてやる。

車だって、AI搭載の車が走って、さあEVシフトだっていう中、わざわざマニュアルの車に乗るわけですよね。

竹井 そうですね。音楽も車も、あえて手を伸ばさないと体験できない世界が広がっているってことなんでしょうね。

では最後になりましたが、今回もドライブミュージックにオススメのカセットを選んでいただけますか。最終回のお題は、友人とのドライブでお願いします。

角田 どうしても男同士のイメージになってしまったんですが、聴いてみてください。

竹井 ありがとうございます。今回もカセットに合いそうなネオクラ車も選んでみましたので、車とのミクスチャーもお楽しみください。
 

オススメのカセット <友人とのドライブ編>

【都会の喧騒】
 

waltz▲DJ Muro - Keep On Diggin’365Days _ K.O.D. Express

日本が世界に誇る「King Of Diggin’」ことDJ MUROの最新ミックステープ。90's Hip Hopにフォーカスした80分ミックスは、当時を知っている友人同士であれば盛り上がること必至。

waltz▲メルセデス・ベンツ ミディアムクラス(W124)

黒くて渋くて男くさい90年代ヒップホップを鳴らすなら、王道のW124を。人気を集めるのはワゴンだが、ここはセダンでギャングスタ気分を盛り上げたい。「Das Beste oder nichts(最善か無か)」という創業者ダイムラーの言葉を体現した最後の世代ともいわれる名車の、ドアを開け閉めしただけで頑丈さが伝わるオーバークオリティっぷりをチェケラ。

【夕日を眺めながら】
 

waltz▲Blue Hawaii - Under 1 House

カナダはモントリオールの男女ユニット。シカゴ・ハウスとドリームポップが融合したかのようなダンスミュージック。知っていると少し自慢できるようなひそかに話題な存在。

waltz▲プジョー 106

浮遊感が気持ちいいクラブミュージックを友人同士で楽しむなら、猫足のフレンチコンパクトを。「このアルバム、フィジカルメディアはカセットテープだけなんだ…… 」なんてうんちくと、左ハンドル・5MTのみという106はよく似合う。それでいて理屈っぽくならないのはとにかくハッピーなハンドリングゆえ。レッツ峠をオートリバース。

【車を止めてしばし語らい】
 

waltz▲trog’low - Midnight Calisthenics

1950年代のニューヨークのナイトクラブへ疑似トリップさせてくれるジャズ系ビートテープ。すごくおしゃれなサウンドなのに主張は控えめ。だから会話のBGMには最適。

waltz▲いすゞ ピアッツァ

シャカシャカしたトラップミュージックとは一線を画す、ジャジーで大人っぽいブーンバップのカセットは、ヒップホップに馴染みのなさそうな、ちょっとすかしたネオクラ車に紛れ込ませておきたい。巨匠ジウジアーロの手になるレトロフューチャーなデザインがたまらないピアッツァと合わせれば、時速0kmでも時空を旅することができそうな気がする。

文/竹井あきら
写真/玉村敬太、早川佳郎、メルセデス・ベンツ、プジョー
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取材協力

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2015年にオープンした、カセットを中心に扱うビンテージセレクトショップ。その他に雑誌、レコードなども取り揃える。現在では、一部の商品はオンラインストアからも購入可能。

住所:東京都目黒区中目黒4-15-5
TEL:03-5734-1017
営業時間:13:00~19:00(月曜定休)