後部座席のシートベルトが義務化になったけど、そんなに必要?

2009年2月3日(火)、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)によって、自動車アセスメント試験が公開されました。
“自動車アセスメント”という言葉にピンとこなくても、ダミー人形を使った自動車の衝突実験と言われれば、映像を見たことがある人もいるかもしれないですね。まずは、その映像をご覧ください。

↑後部座席のシートベルト着用義務化のきっかけとなった3年前のアセスメント試験の映像
シートベルト着用率経年推移グラフ|ニュース&トピックス これは3年前の映像ですが、後席のダミー人形が前席まで飛んでいったのがわかりますよね。これがきっかけで、2008年6月から、後部座席シートベルト着用が義務化されたそうです。エアバッグの標準装備や、ボディの強度など、年々安全性能が向上しているといいますが、シートベルト着用があってこそ、安全が保たれることが実証されたのでしょう。

このように自動車アセスメントとは、市販されている自動車の安全性能を比較・評価する試験のことです。消費者による、安全な車選びと、メーカーによる安全な車の開発の促進を目指し、平成7年から実施されています。

右のグラフを見ると、後部座席のシートベルトの着用が義務化された後の着用率は、一般道で8.8%から30.8%、高速道路では13.5%から62.5%と少し上がってはいます。しかし運転席より定着しているかと言われれば、そうでもないと言わざるをえません。

後部座席シートベルトの着用が面倒だと思っている人や、義務化されたことを知らない人が多いのかもしれません。そこで今回行われたアセスメント試験の様子をリポートすることで、後席シートベルトの必要性に気づいてもらいたいと思います。

シートベルトをしていても、顔がめり込む!

公開試験では、運転席と助手席にダミーを乗せた試験車が、64km/hでアルミハニカムに衝突する、オフセット前面衝突試験が行われました。

運転席の一部を前面から衝突させるこの試験は、実際の事故で起こる衝突に近いものだそうです。衝突によって、車体が変形するので、乗員をどれだけ保護できるか、この試験では評価するのだといいます。
ちなみに今回使用された車種は、ダイハツのムーヴコンテ。試験車は市販されている自動車の中から、無作為に選んでいるそうです。早速、衝撃の映像をご覧いただきましょう。

ダイハツムーヴコンテ衝突後のエアバック|ニュース&トピックス

↑運転席と助手席にダミーが乗った状態で衝突試験を行う(左)。衝突後のエアバッグを開くと、顔に塗った塗料がくっきりと浮かんでいる(右)
衝突の瞬間、バーンと凄まじい衝撃音が試験場内に響きわたりました。その直後、NASVAスタッフによって、車体やダミーの撮影、エアバッグの展開状況の記録、ドアの開閉テストなどが行われます。
一連の確認作業が済んだ後、私たちも試験車両に近づきました。足元に広がる大破した車体から飛び散った部品に気をつけながら、真っ先に、車内のダミーに目を向けました。すると、ダミーの顔に塗られていた塗料が、くっきりとエアバックに映し出されているではありませんか。
シートベルトを着用していたのにもかかわらず、激しくエアバッグに、顔がめり込んだことがわかります。もし、シートベルトを着用していなかったらと想像するだけで、ぞっとした瞬間でした。

後部座席でシートベルトをしていても首には激しい衝撃が!

次に行われたのは、ダミーを助手席の代わりに後席に乗せ替えた試験です。

一回目と同様に、試験車両をアルミハニカムに衝突させます。今後、後席シートベルトの効果を、アセスメント試験の評価項目に追加する予定だそうで、調査試験という形式で行われました。それでは、衝突の瞬間をご覧ください。試験車は、ホンダのフリードです。

ホンダフリード衝突後のダミー人形|カテゴリー名

↑運転席と後部座席にダミーを乗せ、衝突試験を行う(左)。衝突後のダミーの胸部には、顎に塗った塗料がしっかりとついている(右)
大破した車体が、衝突位置から離れた場所まで飛んでいく光景は、何度見てもぞっとしてしまいます。後席のダミーを見てみると、ダミーの着用していた服の胸部に濃いシミができていたのです。
おそらく、顎に塗られた塗料が衝突の瞬間についたのでしょう。日常生活ではあまり届くはずのない胸部に、顎がしっかりとついていたことを思うと、衝撃の恐ろしさに、青ざめてしまいました。

締めやすいシートベルトなら、着用率が上がるかも!?

別の日に、たくさんの輸入車の後部座席に乗る機会があったのですが、平均して国産車よりもシートベルトが締めやすいなという印象を受けました。また、日本車の後席の中央は2点式が多いのですが、試乗した輸入車はいずれも3点式シートベルトを備えていました。

実験後に伺ったNASVAの理事長さんのお話によると、国内と海外では道路の事情や交通法規などいろいろな違いはあるものの、やはり海外のほうがシートベルト着用に関して意識が高いそうです。
自動車の販売台数で世界一を誇っている日本ですが、車のボディの強度やエアバッグなどの安全性能の向上だけでなく、もっと締めやすいシートベルトの開発など、メーカー側にもこの結果を真摯に受け止めて安全性の面でも世界一を目指してほしいと思います。

とはいえ、車に乗る者として、命を守るのはシートベルトでもエアバッグでもなく、自分自身であることを忘れないでください。
事故を起こさない、遭遇しないに越したことはないですが、シートベルトを着用することで命を守れるという事実にもきちんと向き合っていってほしいと思います。
report/編集部