いすゞ ヴィークロス(1993年東京モーターショー)→ビークロス(1997年)

「走れ走れいすゞのトラック」の歌が流れるCMでお馴染みの方も多いであろう、いすゞ。このいすゞが乗用車を生産、販売していたことは若い世代では知る人はほとんどいないかもしれない。いすゞビークロスは、そんないすゞの乗用車の生産がいよいよ終了を迎えようとしていた1997年に市販デビューを果たしている。

いすゞ ヴィークロス | 日刊カーセンサー → | 日刊カーセンサーいすゞ ビークロス | 日刊カーセンサー

ビークロスの原型は1993年開催の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「ヴィークロス」。最初にこのコンセプトカーを見たとき、映画「羊たちの沈黙」で登場するレクター教授が医療刑務所から外へ搬送されるときのマスク姿を連想してしまったことを覚えている。市販モデルよりもおとなしい印象を受けてしまう、珍しいコンセプトカーだ

テーマは“ワイルド&フレンドリー”

いすゞ ヴィークロスインテリア | 日刊カーセンサーこのビークロスをデザインしたのは、いまや日産自動車のデザイン本部長である中村史郎氏。テーマは「ワイルド&フレンドリー」だという。高速走行性と悪路走破性のバランスを考え、デザインとエンジン設計が工夫されていた。カーボンファイバーとアルミニウムコンポジットによって軽量化が図られ、さらにロングストロークダブルウィッシュボーンサスペンションを備える。

ショーモデルはボディサイズが全長3890×全幅1785×全高1620mm、塔載エンジンも直噴1.6L直4DOHC+スーパーチャージャー塔載と、市販モデルに比べて小ぶりであった。ショーモデルの特徴の一つがこのエンジンで、スーパーチャージャーで1.6Lエンジンを過給することで、2.2Lエンジン並みのパワーを引き出すという。ここで車に詳しい諸兄ならお気づきであろう。そう、いまやフォルクスワーゲンのTSIエンジンに代表される考え方を、当時のいすゞも考案していたことになるのだ。

個性的だったいすゞの乗用車

いすゞ ビークロスリヤ | 日刊カーセンサー1997年に市販モデルがデビューしたときは、「本当に出しちゃったんだ!」という声をよく聞いた。サイズは全長4130×全幅1790×全高1710mmに、またエンジンも3.2LのV6搭載するなど、コンセプトカーよりもかなりビッグになって登場した。

某自動車雑誌編集部では、ビークロスのメディア向け試乗会の取材に際し、あまりにも個性的な車ゆえ、普通に取材してはつまらないということになった。そこで、「ウルトラ警備隊の車のようだ」という意見を反映させ、ウルトラセブンを試乗会場に呼び、ビークロスとの絡み撮影を行ったという。

40歳代以上の人にいすゞの乗用車についてたずねると、「FFジェミニ」という名前が多く聞かれるはずだ。バブル経済真っただ中に登場し、車を使った曲芸を披露するテレビCMが話題となった。

ほかにも117クーペ、べレット、フローリアン、ピアッツァなど、とにかく個性的な車を輩出してきたいすゞ。SUVでも売れ筋のビッグホーン以外に、ミューというモデルがあったが、この2代目はアメリカ工場製を輸入していたため、当時アメリカ車およびアメリカ文化を愛する人たちの注目の車となった。

このように異彩を放っていたいすゞの乗用車だが、このDNAがビークロスに集約されたと言っても過言ではないかもしれない。いまでも熱狂的なビークロスファンが多く、取材で神奈川県・箱根町の芦ノ湖スカイラインを走っている時、オーナーズクラブのミーティングに遭遇したことがある。このフロントマスクが勢揃いしていたのは、圧巻以外の何ものでもなかった。