▲2016年におけるエイティーズな輸入車のコックピット。……それは、もしかしたら「自分専用タイムマシンの操縦席」みたいなものなのかもしれません ▲2016年におけるエイティーズな輸入車のコックピット。……それは、もしかしたら「自分専用タイムマシンの操縦席」みたいなものなのかもしれません

数十年ぶりに訪れた公園で流れ落ちるひと筋の涙

筆者が主宰する中年草野球チームはいつも杉並区の和田堀公園というところで練習をしているのだが、過日、都合により初めて使う別のグラウンドで練習を行った。いや「初めて」というか、正確に言えば、そこは筆者が30年ほど前まで暮らし、そして少年時代はほぼ毎日のように出入りしていた善福寺川緑地公園というところだった。

練習終了後、懐かしさのあまり筆者は1人で公園内を散策した。そして、涙した。

園内はずいぶん変わってしまった場所も当然多かったが、なかには「ほぼ昔のまま」というエリアもあった。そこに立つと、様々な記憶が突如としてよみがえった。当時の友人らと「クラスの女子の誰が好き」とかなんとか交わした他愛のない内緒話。「今日は授業なんかやめてみんなで善福寺川公園に行こう!」としょっちゅう言ってくれた、型破りなF先生。まだ若く元気だった、しかし今はもうこの世にいない父母の姿。……使い古された表現で恐縮だが、それらがまるで走馬灯のように眼前をめぐり、不肖中年筆者は恥ずかしながら涙したのだ。

そして「うむ、こういった場所というのはある意味タイムマシンであり、なかなか良いものだな。これからはしょっちゅうここへ来て、昔を思い出しながら涙することにしよう!」と思ったのだが、よく考えてみると、そのアイデアにはいくつかの重大な誤謬が含まれていることに気がついた。

まず第一に、現在筆者が住まう都内某所から杉並区のその公園へ行くには結構な時間がかかるため、しょっちゅう来るわけにはいかないということ。そして第二に、仮に時間を作って頻繁に来れたとしても、「そもそもそんなに昔を振り返ってばかりいてどうすんだ?」という問題がある。たまに懐かしむ分には問題なかろうが、もしも「四六時中、昔を懐かしんでばかりいる中年男」がいるとしたら、かなり考えものである。

▲筆者が少年時代、草野球などをやっていた善福寺川緑地公園。ほとんどの場所は様変わりしていたが、写真の一角は30年前とほぼ変わらないまま。様々な記憶が蘇り、思わず涙した筆者だった ▲筆者が少年時代、草野球などをやっていた善福寺川緑地公園。ほとんどの場所は様変わりしていたが、写真の一角は30年前とほぼ変わらないまま。様々な記憶が蘇り、思わず涙した筆者だった

80年代系輸入車=自分専用ポータブルタイムマシン?

昔を懐かしんでばかりはいられない。しかし、ときには追憶に浸りながら、誰はばかることなく涙を流す時間も大切にしたい。……この相反するイシューを解決するため筆者が思い至ったのが、「そうだ、ある種のタイムマシンとして80年代の輸入車を買おう」ということだった。

ときには追憶に浸りたいと願うのは、おそらくは20代・30代の若衆ではなく筆者のような40代か、あるいは50代・60代だろう。若衆は「追憶」ではなく「今を生きる」ことの方が大事ですからね。で、そういった40代・50代のご同輩がいわゆる青春時代を過ごしたのが、主に80年代だと思われる。その80年代当時に、若かった自分が憧れていた(あるいは乗っていた)80’s輸入車を今買い、そして乗れば、それは「自分専用のタイムマシン」になり得るのではないかと思うのだ。

さらにさかのぼって「60年代・70年代の輸入車を買い、青春時代ではなく子供時代を懐かしむ」という手法もあるだろう。それもまた良しである。いずれにせよ、この「自前のタイムマシンを買う作戦」はなかなかステキである気がしてならない。で、どんな80’s(またはそれ以前の)輸入車が今買えるのかといえば、手っ取り早くは下記の物件リンクを踏んでみていただきたい。本稿執筆日(2016年10月10日)現在で1647台の「タイムマシン」がズラリと陳列されていることがわかるだろう。

▲写真は80年代に世界中の自動車ファンが憧れた世界初のフルタイムスポーツ4WD、アウディ クワトロ。筆者が検索したときはヒットしなかったが、希にこういったお宝が流通していることもある ▲写真は80年代に世界中の自動車ファンが憧れた世界初のフルタイムスポーツ4WD、アウディ クワトロ。筆者が検索したときはヒットしなかったが、希にこういったお宝が流通していることもある

例えばこんな「タイムマシン」はいかが?

とはいえ1647台もあるとすべてを見るのは大変であり、「もうちょっとこう整理された形でネタを提供できないのか?」という人もいらっしゃるだろう。ということで、かなり端折った形ではあるが、1647台におよぶ物件の「超ダイジェスト版」をここにご紹介しよう。

まず比較的安価で、維持もそこそこ容易、なおかつ物件数豊富で探しやすいのは、「六本木のカローラ」とかつて呼ばれたE30こと2代目BMW 3シリーズだろう。相場はおおむね50万~130万円。アルミホイールまでを含むすべてが当時モノのフルノーマル物件を見つけることができたら、最高のタイムマシンとなるはずだ。これに乗って意味もなく2016年の六本木に行ってみたい。

▲日本では83年に登場した2代目BMW 3シリーズ。直6または直4のSOHCを搭載するコンパクトなFRで、セダンの他クーペとカブリオレ、ツーリング(ステーションワゴン)も存在した ▲日本では83年に登場した2代目BMW 3シリーズ。直6または直4のSOHCを搭載するコンパクトなFRで、セダンの他クーペとカブリオレ、ツーリング(ステーションワゴン)も存在した

80年代当時はヤの付く職業人が乗っていたり、下品なスモークフィルムと悪趣味な改造がされていた個体も多かったW126型メルセデス・ベンツ Sクラスも、今となってはクラシカルな雰囲気が楽しめるナイスな選択。悪趣味改造系は今やほぼ淘汰されており、今なおしぶとく流通しているのは上品なフルノーマル系が中心だ。非常に硬質だがどこか穏やかなその乗り味は、現在のメルセデスとはまた異なる妙味である。相場は上下に幅広く、だいたい80万~300万円といったところ。このカテゴリーのなかでは流通量も非常に豊富だ。

▲80年代はじめから90年代初頭まで大活躍したW126。メルセデスが「Sクラス」という名称を使うようになってから数えて2代目のモデルで、80年代当時はやや下品な改造が施された個体も多かった ▲80年代はじめから90年代初頭まで大活躍したW126。メルセデスが「Sクラス」という名称を使うようになってから数えて2代目のモデルで、80年代当時はやや下品な改造が施された個体も多かった

お約束すぎるかもしれないが、アルファロメオ スパイダーは2016年現在の視点から見てもきわめてステキな造形であり、70年代あたりのイタリア映画に紛れ込んだような気分を味わえるだろう。また「世界一美しいクーペ」と呼ばれた初代BMW 6シリーズを購入し、80年代的伊達男の気分を味わうのもステキだ。ちなみに「初代6シリーズが現役だった頃は貧乏学生だったので、絶対買えませんでした」みたいな人も多いのでは? 今なら車両価格150万~250万円ぐらいでイケますよ。もちろん、それプラス多少のメンテナンス代は用意しておく必要はありますが。

▲66年から93年まで、マイナーチェンジを受けながら長らく販売された初代アルファロメオ スパイダー。ベネチアの運河に浮かぶ優雅な小舟のような造形は、現代のオープンカーにはないテイストだ ▲66年から93年まで、マイナーチェンジを受けながら長らく販売された初代アルファロメオ スパイダー。ベネチアの運河に浮かぶ優雅な小舟のような造形は、現代のオープンカーにはないテイストだ
▲76年に登場した際は「世界一美しいクーペ」と各方面から評された、E24こと初代BMW 6シリーズ。現在の流通の中心は、トルクフルかつスムーズきわまりない3.5Lエンジンを搭載する635CSi ▲76年に登場した際は「世界一美しいクーペ」と各方面から評された、E24こと初代6シリーズ。現在の流通の中心は、トルクフルかつスムーズきわまりない3.5Lエンジンを搭載する635CSi

挙げていくとキリがないので「超ダイジェスト」はこのへんでやめておくが、とにかく自前のタイムマシンに興味がある方は、ぜひ下記物件リンクをまずは楽しんでみていただきたい。そして筆者がここで重要だと思うのは、「買い替えではなく、今乗っている最新世代の車にプラスする形で80’s名車を買うべき」ということだ。

80’s名車1台だけですべての用を足すのが決して悪いわけではない。しかし前述のとおり追憶に浸ってばかりいるのも人間としてアレであり、またそもそも80’s名車はさすがにメンテナンスに少々の手間ヒマがかかる部分もあるので、それ1台だとちょっとキツいと感じるかもしれない。「普段は新世代CARに乗って未来を見つめつつ、たまに80’s名車というタイムマシンに乗り込んで涙を流す」というのが、ちょうどいいあんばいの人生なのではないかと思う次第だ。

text/伊達軍曹
photo/BMW、アウディ、ダイムラー、伊達軍曹