西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 ランボルギーニ ウルスの巻
2021/06/21
好みの“スーパーカー風味”なら魅力を感じるか?
筆者の好物といえば、挽肉料理とスーパーカーだ。まるで子供である。だから好き嫌いを処置するには、できるだけ好き方面から攻めてもらった方がいい。生のピーマンは味付けのいい肉詰めで食う、とか。
背の高いSUVだって、そうかもしれない。スーパーカー風味で攻めてみてはどうか。今ならどのハイエンドブランドにもSUVがラインナップされている。あのフェラーリにだって来年くらいには、SUVとは言わないかもしれないが、「FUV(Ferrai Utility Vehicle)」、それっぽいのが出そうだ。
というわけなので、まずはスーパーSUVの雄、ランボルギーニ ウルスに改めて乗ってみることに。ちょうど九州から北海道を折り返して東京へと日本縦断のウルスツアーが開催される(2台で、4/26福岡スタート~5/23東京ゴール)というので、それに乗じて丸2日間、ウルスのドライブを秋田県~青森県で楽しんでみた。
デビュー直後に何度か試乗したとはいうものの、それからしばらくチョイ乗り以外で試すことはなかった。久しぶりにウルスのコックピットで長い時間を過ごすことに。ウルスの以前の印象はというと、「背が高いだけのスーパーGT」。果たして、そのイメージは今も変わらないのだろうか。
結論から言うと、変わらなかった。ウルスは本当によくできたGTだ。背が高いことを除けば、どんな高級GTにも負けない走りを見せてくれる。
街中からシーサイド&カントリーロード、高速道路、そしてワインディングロードまで、“ランボルギーニ”という名字からは想像もできないくらいに扱いやすい。それでいて、望めばオフロード(砂漠や砂利なども含む)やサーキットだってこなす。まさにオールマイティ、万能なスーパーSUVだ。
コンフォートなドライブモードにさえしておけば、ドライバーを妙に急かすこともない。アクセルペダルこそやや慎重に踏んだ方がいい(無造作に踏むと飛び出す)けれど、それさえ注意しておけば、低回転域では想像以上にジェントルで、また車両感覚もつかみやすく、細い道でも気にせず入っていける。自分の思いどおりに動いているという感覚が常にあるので、道を選ばないのだ。まさに、ボディに書かれたとおり、「UNLOCK ANY ROAD」(今回のウルスツアーのキャッチ)である。
風光明媚なシーサイドドライブも、背が高いぶん見晴らし良く、ついつい景色を楽しんでしまうほど快適だ。しっかりと路面を捉え安定して走っているからこそ、景色を楽しもうという余裕がドライバーに生まれる。車の動きに信頼感があるからだ。決してよそ見を推奨するわけではないけれど、景色をチラッと楽しめる回数が車との信頼感によって増えることは間違いない。
そして、間違いなく速い。スポーツモードでは、そら恐ろしいくらいのエグゾーストノートと派手な擬似バックファイア音をまき散らして、すさまじい加速をみせる。それも、重量感を伴った=安定した加速なので、余計に恐ろしい。秋田県八郎潟の四方八方何も走ってない道でちょっと踏んだだけだったけれど、フロントスクリーンの景色の流れが倍速くらいの早送りに見えた。
試乗車には、なんと23インチのオプションホイール&タイヤが奢られていたけれど、これがまた乗り心地がいい。ひょっとすると22インチよりいいんじゃないか。本当に23インチなのか? と2、3度、確認し直したくらいだ。
数あるドライブモードで好みが見つからない場合には、EGOモードを使うといい。筆者の場合、パワートレーンのみスポーツで、ステアリングやショックはコンフォートが好み。ニュルブルクリンクのような公道サーキットでは有効な組み合わせだ。
ツアーは秋田駅を出発し八郎潟で撮影したのち、西海岸沿いを北上、青森県へと入るルート。人生初の秋田~青森ルートで、これで大体、本州の海岸線沿いは走りきった気がする。ゆっくりと訪れてみたい温泉や、海の幸を売り物にするひなびたレストランなどが点在し、早くももう一度走ってみたいエリアの筆頭になった。
そして感動したのは、2日目に体験した弘前エリアのりんご畑だ。ちょうど白い花が満開に咲いており、窓を開けると微かに良い香りが室内にも漂う。どれだけりんごを作っているんだ!と思ってしまうほど、白い花をつけた木々の畑が広がっていた。壮観だ。
そんな中を、V8ツインターボのエグゾーストノートを心地よく響かせながら走り抜けた。もうこれでウルスとの思い出は十分だ。今度来るときは、ウルスもプラグインハイブリッドになっているに違いない。そんなことを考えつつ、青森市で次のドライバーへとバトンタッチ。
ウルスは確かによくできた“ランボルギーニのGT”だった。背が高いだけで、特にSUVであることを感じさせない。
とはいえ、同じランボのスーパースポーツモデルのような刺激にはやはり乏しく、デイリーカーであることは間違いない。それが、自分にとって魅力と思えるかどうかにかかっているという意味では、もう少し他のSUVも試してからの判断というのが、今回の結論だった。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
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