※この記事はカーセンサー関東版8号2004年2月26日発売号に掲載されていたものをWEB用に再構成したものです

日本の高級車に足りなかったしなやか&スポーティな足回り

(Tester/家村 浩明 Photo/渡邉 英昭)

コンセプト
決意の12代目、狙うはクラウンの“原点回帰”

トヨタ クラウンアスリートの走り|プレイバック試乗記トヨタ クラウンアスリートのリアスタイル|プレイバック試乗記
↑どの速度域でも路面をしっかりつかみ、安定したコーナリングを楽しむことができる。エンジンは3Gがオススメ(左)高速域での性能向上に寄与するリアスポイラーなどの空力パーツはアスリート専用装備(右)
キーワードは変化、その方向性はダイナミズム。つまり「静から躍動」へ。開発時に社内で掲げたマニフェストであるという「ZERO(ゼロ)・クラウン」は、旧型までの歴史にとらわれずに12代目は作る!という決意の表れ。

とはいえ、クラウンの歴史を見ると、とくにその前半は、新型は常に旧型とは似ても似つかないほど変わっていた。人気モデルとして成熟期を迎えていたここ数代のクラウンが、イメージはあまり変えないことを選択していただけ。その意味で今回の「ゼロ」は、クラウンスピリットの原点回帰とも言えそう。

デザインの基調は、水平からウエッジシェイプへ。そしてV6エンジンへの換装でノーズも短く、前後のオーバーハングも縮まった。今回は、長大さよりも凝縮感という感じで全体が統一されている。

室内&荷室空間
もてなしの心を取り入れた純日本風のマテリアルを採用

トヨタ クラウンアスリートのインパネ|プレイバック試乗記トヨタ クラウンのリアシート|プレイバック試乗記
↑内装色は合計で3色。アスリートはスポーティな印象をもつ写真のブラックとグレーを設定する(左)旧型に比べ前後席の距離を40mm延長、後席の膝回りや足元にはさらに余裕が増し(右)
オーナーを、そしてドライバーをきちんと「もてなす」。このホスピタリティも、クラウンにとって重要なテーマだが、今回の開発陣は、和風旅館の仲居さんをその範としたという。これは、でしゃばらず、しかし必要なことはきちんとするということらしいが、インテリアにはその感じが濃厚!?

木目調のパネルを使う面積が広く、そこだけを見ると意外にハデだが、全般には、奇をてらわずというモードで統一されている。

3名分のドライビングポジションを記憶しておくマイコンプリセット機能は、アイデアとしてはいい。ただ、ステアリングが上方に上がったとき(乗り込みやすい)と、運転にとっての適切なポジションとの違いが大きいため、メーター下の部分にスキ間ができてしまう。高級車の室内の景色としては、これはちょっと野暮ったい!?

ドライブフィール(アスリート)
コーナリング時に発生するツッパリ感はやや硬め

トヨタ クラウンアスリートのタイヤ|プレイバック試乗記
↑アスリートは前後225/45R18タイヤが標準装備、センターにはゴールド仕上げのオーナメントがほどこされている
スポーツモデルという位置づけのアスリートだが、エンジンはロイヤルと共通で、その違いはひたすら「足」ということ。

12代目クラウンのためのプラットフォームは、ヨーロッパでも走行テストを行っており、今回は「欧州車」を作ったという誤解があるようだが、しかし、クラウンの主たる狙いはもちろん国内マーケットである。

18インチホイールと225/45サイズのタイヤ、電子制御サスのAVSというのがアスリートの足の仕様だが、これは“スポーツ足”としては、巡航時や低速域でもゴツゴツ感の少ないもの。

ただ、その電制サスの設定にロール制御を取り入れているせいか、コーナーなどを攻め込んだときのサスの動きの一部にツッパリ感があり、これが乗り心地での硬さの印象につながる場合があるのは、ちょっと惜しい。

ドライブフィール(ロイヤル)
乗り心地重視だが懐が深く粘る足回りは絶品と言える

トヨタ クラウンのエンジン|プレイバック試乗記
↑3G、2.5Gとも十分以上の実力をもつが、低速域での扱いやすさを考えると3Gを選びたい
アスリートの足はハードに走っていいというセッティングをもちながら、特にサスペンションの動き始めのところでは、しなやかさに留意したものになっている。

これに対しロイヤルは、あくまでも基本は乗り心地重視。これは従来クラウンがもつ「味」の部分である。しかし、そんなやわらかさをキープしたまま、実は攻めても意外に音を上げないというしたたかな足回りをもつ。

街中や低速時での走行など、誰を乗せても文句は言われそうにない?しなやかさをもちながら、ひとたびワインディング路を攻めてみると不安なく、快適なまま、しっかりコーナーを駆け抜けてしまう、という実力を見せてくれる。

アスリートに注目が集まりがちなクラウンだが、オールマイティさと優れたリニアリティでは、このロイヤルの足はアスリートに勝ると、ここで断言してしまおう!

こんな人にオススメ

「クラウンその新世界…」という感じで、デザインにせよ走りにせよ、新たな提案をしているのがこのクルマ。それを受け入れるならば、まずは新しモノ好きにオススメ。そして、この脱皮ぶりと意外さは、もはや魅力のはず。

また欧州テストを踏まえて、そのうえで「日本」に適合させた足を提示しているという意味では、これはこの国で走ってガマンの少ない久々の「国際派」上級FR車とも言えそう。もし欧州の高級FR車に、日本で使用しての快適性が足らないと不満を感じるところがあるなら、チェックに値する新型車ではないだろうか。
主要諸元のグレード 3.0 アスリート“G パッケージ”
駆動方式 FR
トランスミッション 6AT
全長×全幅×全高(mm) 4820×1780×1470
ホイールベース(mm) 2850
車両重量(kg) 1620
乗車定員(人) 5
エンジン種類 V6DOHC
総排気量(cc) 2984
最高出力[kW(ps)rpm] 188kW(256ps)/6200rpm
最大トルク[N・m(kg-m)/rpm] 314N・m(32.0kg-m)/3600rpm
ガソリン種類/容量(L) 無鉛プレミアム/71
車両本体価格 490万円