三菱 アウトランダーPHEV▲自動車テクノロジーライター松本英雄氏がアウトランダーPHEVに試乗した際のレポートをお届けする

さらなる進化への期待が広がる、新型アウトランダーPHEV

2代目アウトランダーPHEVが誕生して、2022年でもう10年が経過した。

当時、初めてプロトタイプを試乗したときの衝撃は今でも忘れない。

細かな制御による4WDシステム、ターマックの走りはミドル級のSUVにしてコンパクト4WDのようにスムーズかつきびきびと走っていた。PHEVでの4WDの性能を一気に高めた印象だった。

ダイナミックシールドと称したマスクなどを採用し、成熟さが理解できる性能の積み上げを実施してきたのだ。

そして今回、9年ぶりにフルモデルチェンジを果たした3代目アウトランダーPHEVは、日産・ルノーとのアライアンスによって作られたプラットフォームで作られている。

個人的には以前のシャシーが素晴らしかったので続けてほしかったが……。

骨格を一新して取り組んだアウトランダーPHEVは果たしさらなる進化をとげているのだろうか。

一般道と、滑りやすいダートトライアルコースで性能を試してきたので報告したい。
 

三菱 アウトランダー
三菱 アウトランダー

まず、話したいのはデザインについてだ。

ミディアムサイズのプラットフォームを用いていながら、力強い印象的なフォルム。先代に比べると、凝縮されたような雰囲気だ。特にフロントマスクは全幅が1860mmとは思えないくらい堂々とした印象を受ける。

フロントのフェンダーまわりに比べ、リアの方がさらにマッシブな印象を感じさせるのは、出力的に正しい方向性を示したデザインであるといえるだろう。

全体的にはレンジローバーイヴォークとシトロエンのエッセンスを混入したような雰囲気は否めないが、Aピラーからの後ろは独自性が感じられる。

新型アウトランダーの魅力はモーターによる「S-AWC」という4WDシステムの制御だ。これをわかりやすく理解するには、滑りやすい路面でのパフォーマンスが一番であろう。

初めにダートトラックでの走りが印象的だったのでお伝えすると、モードによって多少の違いがあるものの、水を含んだ土の場合はGRAVEL(グラベル)モードのコントロール性が高い。

理由は滑ったときの四輪の細かな制御はもちろんだが、フロントよりも馬力が高い後軸のモーターが滑らせながら積極的に空転させてオーバーステアにもっていく。

すなわち、ステアリングを切ってアンダーになるところを後輪でかき回しながら曲がっていくというラリースタイルの走りがあるのだ。

滑らせて曲がっていく―というDNAが表面的ではなく、受け継いできたDNAに隠されているのだ。それを三菱のフラッグシップSUVに投入している気づきがひとつあった。

デザインに関しては、空転させる走りを感じるような油くささは皆無だ。とはいえ、それは走りにはしっかりと残されている。
 

三菱 アウトランダーPHEV

順番が違うようであるが、高速と一般道の走りは静粛性と乗り心地がかなり改善されていた。パワーも少々落ち着いた感じのモーター制御が、大排気量のモデルに乗っているように感じさせる。

乗り心地に関して言えば、ストローク感があってゆったりとしたフラッグシップを感じさせる。快適に遠くまで行きたくなる仕様だ。
 

三菱 アウトランダーPHEV

ただし、文句をつけたくなる部分もないわけではない。

中高速のコーナーはもう少ししっかりさせた方が安心感をもたらすに違いない。現段階では、センター付近のステアリングホイールの曖昧さと節度がないからだ。

これはパワーモードによって改善されるが、ノーマルやエコモードでも中立付近のしっかり感が必要だろう。リアのモーターの制御が強くなると、コーナリングはリニアリティーを少々欠く。

これはリアのサスペンション剛性が気になるという点と合致する。もっとも、アウトランダーのエンジニアは上記の欠点も克服すると個人的に信じている。

なぜなら、先代のプラットフォームをあそこまで成熟させた実績があるからだ。なんといっても三菱の強みは、お世辞にも多いといえないモデル数が、逆にそれだけに専念して改良に取り組むことができる環境にあるという点ではないだろうか。

デリカもそうであったし、ランエボに関しては例えるなら、最後のスープまでうま味を忘れないと思わせてくれるような改良があった。先代のアウトランダーもそうだった。

進化した3代目アウトランダーへの期待はますます膨らむのである。
 

文/松本英雄、写真/篠原晃一
松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。車に乗り込むと即座に車両のすべてを察知。その鋭い視点から、試乗会ではメーカー陣に多く意見を求められている。数々のメディアに寄稿する他、工業高校の自動車科で教鞭を執る。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。