house ▲施主は、ロータス エキシージで年5戦のレース参戦をはじめ、頻繁にサーキットを走る。アルファ ロメオ GT1300ジュニアは北海道から九州、沖縄までクラシックカーラリーで走り回ったお気に入りだそうだ


家の前を通っただけでは、ここに複数台の名車が集まるガレージがあるとは想像もつかないだろう。しかし、車1台が通れるシャッター付きの門をくぐると、ロータスといった現代の車から、ジャガーやベントレー、ランボルギーニ等々の往年の名車が”遊びにくる”ガレージがあるのだ
 

名車を飾るのではなく眺めて走って楽しむ

施主がクラシックカー沼にハマるきっかけになった車が、写真に写る黄色いランボルギーニ ミウラ。

実は父親の愛車で、当時大学生だった施主はこのミウラで父親と初めてクラシックカーレースに出走した。その頃は三菱のランサーエボリューションⅦで、長野県の山道を楽しんでいたそうだが、ミウラでクラシックカーレースを走ってみて「こんな世界があるんだ!!」と、一気に底なし沼へと引きずり込まれた。

現代の車もクラシックカーも好き。きっかけは父親の影響だ。4人兄弟が全員、感化され、特に三男の施主が「一番の車好きじゃないかな」という。

中でも思い入れのあるクラシックカーはジャガー XK-120ロードスター。結婚してすぐ、そのジャガーに奥様を乗せて長野のラリーに参加した。途中で雨が降り出すと、やがてみぞれに。「屋根がないからとても寒くて。寝たら死ぬ(笑)と運転しながら2人でずっと歌っていました」

奥様と子供をアルファ ロメオに乗せて九州のラリーを走ったこともある。3年前のことだ。最近は奥様が子育てで忙しいため、一緒に走る機会は減ったが、子供が手離れしたらまたレースの助手席に誘うつもりだという。
 

house ▲施主の愛車はロータス エキシージとアルファ ロメオ 1300GTジュニアの他、ジャガー XK-120ロードスター、ベントレー 3Lスピード。ミウラは父親が所有
house ▲木造だが、これだけ広い間口と6mという奥行きを実現。ガレージの前に広がる芝生の庭からは、バーベキューなどを楽しみながら愛車を眺めることができる
house ▲奥の壁には、出走したクラッシックカーレースで実際に使用したゼッケンが貼られている。これだけたくさんあるのに、実は「全部じゃない」とのこと

そう、施主一家はみんな走ることが好きなのだ。「車は飾っているだけじゃ面白くない。乗り鉄ならぬ乗り車!? かな」と笑う。

父親と施主の兄弟がフェラーリやポルシェなどを、それぞれ複数台所有しているが、すべて走れる状態にある。誰かのガレージが空いていれば、そこに自分の愛車を置かせてもらう、なんてこともしょっちゅうある。

そんな車好き一家の一人である施主は、母屋とガレージ棟をあえて別に建てた。母屋から愛車が佇むガレージを見たかったというのがその理由。「クラシックカーも現代の車もしっくりくる、良い意味で遊びのあるデザインにしたかった」

そこで依頼したのは、クラシックカーレースで知り合った建築家の倉島理行さん。「この人なら上手に遊んでくれそう」と思ったという。

依頼された倉島さんがまず考えたのは、ガレージ棟に設けるリビングからはもちろん、上からも車を眺められるようにすること。

「車を3台置くので、リビングはそれほど広く取れません。しかし、家族も友人たちも車好きですから、みなさんが集まれる場がもう少し欲しかった。また、愛車のうちの1台は、ジャガーのロードスター(取材時はメンテ中)でしたから、上から眺めたら面白いだろうと考えたのです」
 

house ▲ロフトからの景色。ここからロータスやアルファ ロメオ、ジャガー、ベントレー、さらに親や兄弟、友人の名車たちを眺めることができる
house ▲ガレージ奥の壁際に沿って設けられた階段とロフト。普段は目にすることがない、上からの眺めは施主お気に入りでもある
house ▲ガレージから見たリビング。間にある大きなオリジナルのガラス窓を備えられるのは、施工会社も所有している建築家の倉島さんならでは

そして、一般的には道路側にガレージの開口部を設けるのだが、このガレージは道路に背を向けて建っている。

「出入りするのが人目を引く車ばかりですからね(笑)。外からはそれが分からないようにしようと思いました。それに施主が所有するジャガーやロータスはイギリス車。イギリスでは、敷地に入ってからガレージに納めるこの形が一般的なんです」

こうして完成した木造のイギリス流ガレージに、実は3年ほど前にもう1台のイギリス車が加わった。

残念ながら取材時は、ジャガーとともにメンテナンス中だったが、1924年式ベントレー 3Lスピードだ。新しく迎えた愛車がもうすぐ100歳を迎えるクラシックカー。

もちろん、これも走るための車だ。なぜそこまで走ることが好きなのだろう。「だって昨日より運転が上手くなったら、今日が楽しくなるじゃないですか」
 

house ▲リビングから見たガレージの景色。3台がキレイに見えるようにこだわった特注の窓で、施主は気づくとここからずっと愛車を眺めているそう
house ▲エキシージでレースによく参加する施主は、サーキットだけでなく、最近購入したシミュレーターを使って腕を磨いているそうだ
house ▲シミュレーターを奥に入れるために改装したというリビング。よくシミュレーターでF1に乗って気分転換しているそう

■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:1023.0㎡
■建築面積:72.0㎡
■延床面積:72.0㎡
■設計・監理/Kurashima 一級建築士事務所
■TEL:0120-301-004

※カーセンサーEDGE 2023年2月号(2022年12月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/尾形和美