“アルファ

これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】

クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

高級車とは、を教えてくれる“量産スポーツカー”

松本 「名車への道」の車選びなんだけどね、最近は探すのも楽しくなったきたよ。「少し前まではこれから名車になる」というくくりで新しい車から優先して探していたからね。

——10年近く連載やってますけど、古くて希少な車を見られる機会って、そうそうないですからね。今後も古いモデルも撮れるチャンスを逃さずにしていきたいですね。

松本 こういう車ってさ、中古車の価格が落ちて、買うハードルが下がるのは良いことなんだけど、そうするとオリジナリティが高くて程度の良いモノがグっと少なくなってくるんだよね。

——だからこそ我々の探す苦労も増えるわけでして……。

松本 そう思って、今回はボクが探したじゃない! 物件を眺めていて、いつもお世話になっているコレツィオーネさんで、素晴らしい車を発見しておいたよ。

——素晴らしいですね。早速見に行きましょうよ。

松本 今日見に行くのはボクも大好きなモデルで、25歳くらいの時に乗っていた車なんだ。

 

アルファ ロメオ ジュリエッタ スプリント
アルファ ロメオ ジュリエッタ スプリント

——へぇ。この車ですか? あれ? この車って……何でしたっけ?(笑)

松本 えっ! 本気で聞いてるの? アルファ ロメオ ジュリエッタ スプリントだよ。

——あー。知ってますけど、実際に見る機会なんてないから、パっと見ても分からないんですよね……。

松本 この車は本当に最高なんだよ。この物件はおそらく1959年から1961年モデルじゃないかな。1961年の後半に作られた個体ならば62年式ということになる。さらにジュリエッタと名乗るのは当時は1300ccまでなんだよ。その後は新しい時代のアルファ ロメオのための1600ccのユニットを搭載していて、それはジュリアって呼ぶんだ。

——なるほど。そういう線引きがされていたんですね。あ、この物件は61年式のようです。

 

アルファ ロメオ ジュリエッタ スプリント

松本 しかしいい色だねぇ。僕もこの色のモデルが欲しかったなぁ。確か「トルネード ブルー」っていう色だったと思うね。当時のジュリエッタ スプリントはできるだけコストを抑えて生産効率を上げるため、ボディカラーは4色しかなかったんだ。だから中古車マーケットで見かけるジュリエッタはほとんどアルファレッドなんだ。イタリアのナショナルカラーであるブルーは2種類用意されていたと思うな。

——えっ? イタリアのナショナルカラーって赤じゃないんですか?

松本 前にも言ったと思うけど、実はブルーなんだよ。イタリア代表のサッカーのユニフォームを見てみなよ。

——アズーリ……青ですね。

松本 でしょ? しかし、この少しくすんだブルーがなんとも言えないよね。初代ジュリエッタ スプリントは大きく分けると2種類あるんだ。750と101。初期は750と言ってグリルやエンジンが違うんだよ。ボディはアメリカの基準に合わせていて、1958年からヘッドライトが大きくなっているんだ。リアのディテールも違いがあるね。どっちが好きかは意見が分かれるところだけど、基本は同じだからね。アルファ ロメオはグランプリカーを作っていた名門中の名門なのは知っているよね? 当時フェラーリのサスペンションはリーフスプリングだったのに、ジュリエッタ スプリントはすでにコイル式でね。しかもほとんどゴムブッシュを使っていないサスペンションリンクを採用していたんだよ。

——え? ゴムブッシュを使っていないなんて、まるでレーシングカーみたいじゃないですか。

松本 そうだよ。フロントはウィッシュボーンでリアがAアームを使ったコイル式なんだ。金属ブッシュと言われるタイプで、メンテナンスによっては30年くらい使えるんじゃないかなぁ。僕のは1957年式だったけど全然大丈夫だったね。

——アルファ ロメオって、ちょうどこの頃から方向転換をしたんですよね?

松本 そうだね。ジュリエッタ スプリントが発売される前までは、ハンドメイドボディばかりの超高級スポーツカーメーカーだったからね。ジュリエッタ スプリントを大量生産するための準備には、大変な苦労があったと言われているよね。プロトタイプをデザインしたジュゼッペ・スカルナティは、航空機に精通していたエンジニアでもありデザイナーでね。750タイプはリアのナンバー灯に飛行機の形があしらわれているんだよ。だからその部分を見れば年式が想像がつくんだ。

——あれ? デザインってスカリオーネじゃないんですか?

松本 よく鬼才フランコ・スカリオーネの作品と言われるんだけど、それは生産モデルに向けての手直しの部分なんだ。それに大きな役目をはたしたデザイナーがスカリオーネであったり、駆け出しのジウジアローだったりしたそうだね。

——実際に乗るとどうなんですか?

松本 これは初期の750と101では若干違うんだけど、ハンドリングは金属ブッシュならではのしなやかかつダイレクトでね、乗り心地は抜群にいいよ。機敏に走るしね。1300ccのベルリネッタでこんな高級な量産車は見たことがないね。また、エクステリアのモノフォルムもさることながら、インテリアの調度品が抜群でね。まさにスポーツカーの高級のイロハを教えてくれたモデルなんだよね。すべてにバランスが取れているデザインってこういう車なのかもね。まさに絶頂期の高級スポーツカーメーカーが送り出した渾身の1台が、ジュリエッタ スプリントなんだよ。

 

アルファ ロメオ ジュリエッタ スプリント

アルファ ロメオ初のコンパクトモデルとして、1954年に登場したスタイリッシュなクーペ。スポーティな走りと比較的安価な設定で人気を博した。セダン(ベルリーナ)やスパイダーなども登場している。1959年にはマイナーチェンジを実施、撮影車両はその後期型(101系)となる。

アルファ ロメオ ジュリエッタ スプリント
アルファ ロメオ ジュリエッタ スプリント

※カーセンサーEDGE 2022年6月号(2022年4月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏