ずっと販売台数1位のホンダ N-BOX。ぶっちゃけなんでそんなに売れているのか開発者とトップセールスマンに聞いてみた
2024/11/08
売れている理由を「中の人」に聞いてみた
他にも魅力的な車はたくさんあるにもかかわらず、2021年4月~2024年3月まで3年連続で、登録車(いわゆる普通車)を含む国内販売台数ナンバーワンの座に輝いているホンダ N-BOX。
N-BOXが圧倒的なまでに売れている理由は、ざっくり言ってしまえば「車内が超広くて便利だから!」ということになるかと思うが、車内が広くて便利な軽スーパーハイトワゴンは、何もホンダ N-BOXだけではない。他メーカーの同ジャンル車だって、普通に考えれば十分に広くて便利なのだ。
であるならば、N-BOXが売れている“本当の理由”は、カタログや公式サイトを見ただけではわからない部分にあるのかもしれない……。ということで、3代目N-BOXの開発を主導したチーフエンジニアである諌山博之さんと、“日本で一番N-BOXを売る男(?)”ともうわさされているHonda Cars 埼玉 西大宮店 営業主任の柳取倫太郎さんに、“正味のところ”を聞いてみた。
本田技研工業 四輪事業本部 LPLチーフエンジニア
諌山博之さん
3代目N-BOXの開発責任者。初代オデッセイやライフなどのインテリア設計を手掛けた後、アジアでの車両開発に携わるなどグローバルに活躍してきたキャリアを持つ。
インタビュアー
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。
平均点が超高いN-BOX
「車内が広くて便利で、よく走る軽スーパーハイトワゴン」というのはホンダ N-BOXだけではないと思うのですが、ズバリ、なぜN-BOXが一番売れるのでしょうか?
他社さんの軽スーパーハイトワゴンも高いレベルにあると認識しています。あるメーカーさんのモデルは車内が広いですし、また別のメーカーさんのモデルは燃費性能に優れています。また、その他「走りがいい」というモデルもあるでしょう。しかし、それら美点のうち1つか2つではなく“全部”そろっているのがN-BOXであると考えていただけると、わかりやすいのではないかと思います。
ぜ、全部ですか?
そうですね。例えばパッケージングについて申し上げますと、ホンダの車はM・M思想(Man-Maximum、Mecha-Minimum)にもとづいて「センタータンクレイアウト」という仕組みを採用しています。これにより室内は非常に広く作ることができますし、床面を低くできますので、後席を倒せば自転車をラクに積み込むことも可能です。そして自転車などを積まないときには、後席まわりを非常に広く使うことができるんですね。
なるほど。しかしパッケージング以外はどうなんですか?
いわゆる安全性の領域においてもクラストップであると自負しています。N-BOXはすべてグレードにHonda SENSINGという安全運転支援システムを標準装備しています。いわゆるグレードの上下は関係なく、すべてのお客さまに“同じ安全”をお届けしたいと思っているのです。またその他、2023年のJNCAP(独立行政法人 自動車事故対策機構が行っている自動車の安全性能評価)で満点の5つ星を獲得した軽自動車は、弊社のN-BOXだけです。
ううむ。パッケージング面において優秀であり、安全性もグレード不問で高いと。その他は?
その他では「燃費性能と走行性能の高さが両立している」というのもポイントかと思います。確かに、世の中にはカタログ燃費が非常に良い軽スーパーハイトワゴンもあります。
しかし御社のN-BOXは……?
カタログ燃費としてはクラスナンバーワンではないのですが、ノンターボ車もターボ車も十分に良好な実燃費をマークしつつ、きちんと加速してくれます。また、現行型N-BOXは実燃費と加速性能が良好なだけでなく、静粛性や操縦安定性に関してもクラストップのレベルにあると自負しております。
「ある能力を突出させると、どこか別の能力は若干劣ることになる」というトレードオフの関係が、モノづくりに限らず世の常ではありますが、N-BOXはそうではない、ということですね?
まさにN-BOXは六角形のレーダーチャートを開発の指標としておりまして、計6項目の点数で描かれる六角形が全方位的に大きくなるように開発したのです。こちらが、そのレーダーチャートです。
「パッケージ」「動力性能」「デザイン・質感」「安全性」「ブランド」「乗り心地・静粛性」の6項目ですね。普通に考えて、例えば動力性能を上げようとすると、乗り心地や静粛性などは犠牲になったりもしますが、N-BOXは、そうはならなかったということですね?
大変でしたが、頑張りました。また他社さんとの比較だけでなく、自社の歴代モデルと比べても、3代目N-BOXはこの六角形がより大きくなっている必要があります。一例ですが、先代までのN-BOXは運転席のメーターが上方向にやや出っ張っていたため、「見下げ」がいまひとつだった(ドライバーがフロントガラスを介して視認し得る前方下部の視界性がいまひとつだった)というのがありました。
それで、どんな変更を?
3代目では完全に水平基調なダッシュパネルの中にメーター類を収めることで「見下げ」を改善し、先代と比べドライバー視点で1.5m手前までを視認できるようにしました。そして実はインパネとドアライニング、ボンネットフードまでのラインをすべて水平基調にすることで車両感覚がつかみやすくもなっているのです。このラインが凸凹していると“基準”がわかりにくくなり、車両感覚がつかみづらくなってしまうんですよね。
あ、なるほど。だから現行型のN-BOXは運転しやすいのか……。そしてこれは私見ですが、そのように水平基調全開のカタチでありながら、最終的な車としての内外装デザインは決して四角四面で平凡なものではなく、いわゆるエモーションにも訴えるものになっているのが素晴らしいと感じています。
ありがとうございます。そう言っていただけると、頑張って作ったかいがあります(笑)。
なぜライバル車より高くても選ばれる?
そんな現行型ホンダ N-BOXを数多く販売されているHonda Cars 埼玉 西大宮店の柳取さん。全国で1万人ほどいるホンダセールスの中で、常に上位1%に入る超優秀な成績をおさめていているという。
Honda Cars 埼玉 西大宮店 営業主任
柳取倫太郎さん
3代目N-BOXのトップセールスマン。担当エリアにおいて、月間4~5台のN-BOXを販売し続けるなど活躍中。
柳取さんは特にN-BOXを本当に数多くお売りになっているそうですが?
いえいえそんなめっそうもない! 上には上がいますので……。
ご謙遜はさておき、柳取さんはなぜ、そんなにも数多くのN-BOXを販売することに成功しているのでしょうか?
さほど難しいことはしていない――というのが正直なところです。3代目のN-BOXは、先ほどチーフエンジニアの諌山さんが言ったような特徴を明確に備えている「よくできた車」です。そして、開発の方々が丹念に手をかけた部分の優位性がシンプルに伝わってくる車でもあります。そのため私がやっているのは、そこにほんの少しだけプラスαして、自信をもってお客さまに提案させていただくだけなんです。その結果、言い方は微妙かもしれませんが「自然と売れていく」のが3代目N-BOXであると、私としては実感しています。
とはいえですよ? 軽スーパーハイトワゴンを求めるお客さまというのは、……これは私の偏見かもしれませんが、「操縦安定性うんぬん」「センタータンクレイアウトがどうのこうの」という部分にはさほど興味がなく、「で、結論として広いの? ドリンクホルダーはいくつ付いてるの?」みたいな話に終始するのではないですか?
そんなことはないと思っています。確かに、車雑誌に出てくるような難解な用語でのご質問を受けることはほぼありません。しかし、お客さまがお買いになる車は「自分や家族の生活や命を守るための大切な機械」なんです。それゆえ、やはり安全性や経済性などについては真剣な興味をお持ちですし、「近所の急坂をストレスなく上れるだろうか?」といったニュアンスの“走行性能”に関しても、お客さまの目は非常にシビアです。
確かに。これに関しては私の軽率な思い込みでしたね。申し訳ございません。
いえいえそんな! ……で、そういった“生活の友”としてのN-BOXの特徴と魅力をご説明すれば、大半のお客さまには「なるほど!」と心の底からご納得いただけて、結果として販売させていただく形になる――という具合なのです。
とはいえ他社の軽スーパーハイトワゴンも、それぞれ独自の長所がありますから、「やっぱり●●社の■■■にするわ」なんてことにはならないのですか?
もちろんご検討された結果、他社さんのモデルを選ばれるお客さまもゼロではありません。しかし、私が日々のセールス活動において大切にしているのは、「その●●社さんの■■■というモデルの長所は、お客さまの生活の中で本当にメリットになり得るものですか?」というご質問をして、考えていただくことです。
お客さま自身に考えていただくと、どうなるのですか?
そうすると多くの場合、「■■■の▲▲▲という特徴は、確かにいいんだけど、実際の生活の中で役に立つのは年に1回、あるかないかぐらいかなぁ……」ということになります。となるとやはり、先ほど諌山チーフエンジニアの話にも出た「全方位的に大きな六角形」が利いてくるわけです。「やっぱり本当の意味で自分の生活に役立つのはN-BOXだと思うから、これに決めます!」というニュアンスで、多くのお客さまがある意味自然と、ホンダ N-BOXをお選びになっているのです。
確かに柳取さんと諌山さんのお話を聞いていると、私も「買うならN-BOXかな?」と自然と思えてきてしまいました(笑)。
「ウチはN-BOXじゃないとダメなんだよね」「N-BOXを買っておけば間違いないから」とおっしゃっていただけるお客さまは、本当にたくさんいらっしゃいます。初代から乗り継いでいただいて、今や一家で4台のN-BOXをお持ちのお客さまもいらっしゃいますし(笑)。お客さまの生活に本当の意味で役に立つ車を、自信をもって販売させていただけるのは「……セールス冥利に尽きる!」と言うことができるでしょう。
インタビュー後に聞いたところによれば、柳取さんがN-BOXを販売したお客さまの属性は決して「ファミリー層やビギナー層ばかり」ではなく、年齢も運転経験も、そして車の所有経験もバラバラで、他の軽自動車からN-BOXに乗り替える人もいれば、逆に他社のラージサイズミニバンからN-BOXにダウンサイズしたお客さまもいるとのこと。
このあたりの多様性も、3代目ホンダ N-BOXという車の「全方位にわたる能力の高さ」を物語り、そして証明しているのだろう。
3年連続で国内販売台数ナンバーワンの座に輝いたのも、当然といえば当然なのかもしれない。
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