24時間レース▲モータースポーツの花形といえる24時間耐久レース。世界的にメジャーなレースのうち、世界一の草レースと呼ばれる「ニュルブルクリンク24時間レース」と、自動車メーカーが威信をかけて戦う「ル・マン24時間レース」の2大タイトルをフェラーリが勝利した(写真はル・マン24時間レース)

世界一の草レースでドイツの牙城を崩しフェラーリが勝利

2023年5月のニュルブルクリンク24時間レースに続き、6月のル・マン24時間レースとフェラーリは世界的な2つの24時間レースで勝利するという快挙を成し遂げた。

5月20~21日、ドイツ・ニュルブルクリンクにて今年で51回を数えるADACトタルエナジーズ24時間レース、通称「ニュルブルクリンク24時間レース」が行われた。

世界一過酷といわれる全長約20kmのニュルブルクリンク北コース(ノルドシュライフェ)と、通常のサーキットであるグランプリコースを合わせた1周約25kmの特設コースを使って行われるレースだ。

もとは地元の人たちが集うローカルな草レースだった。しかし、近年は自動車メーカー系のチームが多数参戦。FIA GT3マシンによって争われるトップカテゴリーのSP9クラスは、メーカー選手権の様相を呈している。メルセデスAMG GT、BMW M4、アウディ R8、ポルシェ 911といった地元ドイツ勢を中心に、フェラーリ 296、ランボルギーニ ウラカン、アストンマーティン ヴァンテージなど、32台がずらりと顔を揃えた。

実はこのレース、過去21年間はずっとドイツの自動車メーカーが優勝してきた。しかし、今年は大番狂わせが起きた。なんとフェラーリ 296(30号車)が歴代最多の周回数となる162周をラップし、フェラーリとして初となるニュルブルクリンク24時間レース総合優勝を果たしたのだ。

2位は24時間走行してわずか26秒遅れのBMW M4で、3位と4位はメルセデスAMG GT、5位はポルシェ 911。トップ5のうち4台をドイツ勢が占め、なんとか面目を保ってはいるものの、ドイツ勢にとっては歴史的な敗北といえる。2001年、2002年にクライスラー(ダッジ)バイパーが2連勝を果たしたが、それ以来のドイツメーカー以外での優勝であり、イタリア車としても初優勝となる。今回は3台の296が参戦していたが、すべて完走を果たし、最新のフェラーリの耐久性の高さを証明することにもなった。
 

24時間耐久レース▲世界で最も過酷なコースといわれるニュルブルクリンクの1周約25kmにもわたる特設コースで行われた24時間耐久レース。一部は山岳地帯を切り開き、一部は森に囲まれていることから「Green Hell(緑の地獄)」とも呼ばれている
24時間耐久レース▲フェラーリは296 GT3で参戦。速さだけでなく、参戦車両のすべてが完走するという耐久性の高さを見せつけた
24時間耐久レース▲296 GT3は2022年にレース参戦するプロドライバーやジェントルマンドライバーのために開発されたモデル。296 GTBをベースとするが、GT3規定にのっとり、ハイブリッドシステムを取り外した3.0L V6ツインターボを搭載する
24時間耐久レース▲ベースとなった296 GTBは3.0L V6ツインターボ+プラグインハイブリッドシステムを搭載した2シーターミッドシップスーパースポーツ

ニュルの勝利から半月後、トヨタの6連覇を阻んだフェラーリ

それから半月後の6月10日、11日の2日間、フランスで「ル・マン24時間レース」が行われた。今年は100周年記念でもあり大きな注目が集まった。

ル・マン24時間は、WEC(FIA世界耐久選手権)シリーズのひとつであり、年間8戦のうちの4戦目にあたる。2017年にポルシェが撤退して以降、昨シーズンまでWECのトップカテゴリーは実質的にトヨタ1社によって守られてきた。

それがトップカテゴリー(ハイパーカークラス)のレギュレーション改定により、今シーズンからトヨタをはじめ、フェラーリ、キャデラック、ポルシェ、プジョーの5つの自動車メーカーと、グリッケンハウス、ヴァンウォールという2つのレーシングカーコンストラクターの計7チームによって争われている。

WECの2023シーズン開幕戦であるセブリングでトヨタが1-2フィニッシュ。フェラーリは3位に入った。第2戦のポルトガルではトヨタが優勝、2位フェラーリ、3位ポルシェと表彰台をわける結果に。第3戦のスパフランコルシャンではトヨタが再び1-2フィニッシュで、フェラーリが3位となった。

開幕3連勝でル・マンに乗り込んだトヨタにとって、今年のル・マンは6連覇のかかった重要な大会だった。ちなみに、ル・マン24時間レースの最多連勝数はポルシェの7連勝、続いてフェラーリの6連勝。5連勝のトヨタはアウディと並んでおり、フェラーリに並ぶ記録を目指した大会でもあった。

しかし、大会直前に大きな問題が起きた。突然の性能調整、つまりBoP(Balance of Performance)の変更が行われたのだ。その結果、トヨタのマシンに37kgものバラスト(重し)が積まれることになったのだ。フェラーリは24kg増加、キャデラックは11kg増。一方でポルシェはわずか3kg増、プジョーにいたっては±0である。

FIA(国際自動車連盟)選手権において、本来であればこのような直前のルール変更はありえない。にもかかわらず強行された。トヨタおろしとも思える政治的な力が働いたことは想像に難くない。

レース結果は、1965年以来、58年ぶりにフェラーリ(499P 51号車)が優勝。トヨタ(GR010ハイブリッド8号車)はわずかに及ばず総合2位だった。フェラーリとトヨタの戦いは、24時間レースとは思えないほどの大接戦で、最終的にフェラーリが81秒差をつけてトップチェッカーを受けた。

近年まれにみる素晴らしいレース展開だっただけに、政治的な配慮が働いたことに残念な思いがするのも事実だが、フェラーリの速さと高い信頼性は本物だった。

近年、F1選手権では苦戦を強いられているフェラーリだが、映画『フォード vs フェラーリ』のような耐久レースでの活躍を、これからも大いに期待したい。
 

24時間耐久レース▲今年のル・マン時間レースは、記念すべき100周年大会。ここ数年、トップカテゴリーはトヨタの独壇場だったが、今年はフェラーリ、キャデラック、ポルシェ、プジョーなどが揃って参戦。トヨタ包囲網とも呼べる状況だった
24時間耐久レース▲レース場外で様々な争いが生じてしまったことは残念だが、それでもチャンピオンのトヨタとチャレンジャーのフェラーリは、24時間を走り終えてわずか81秒差という大接戦だった(写真は手前がトヨタ、奥の2台がフェラーリ)
24時間耐久レース▲優勝を飾ったのはフェラーリの51号車。24時間の周回数は342周だった。なお、2位のトヨタも同一周回で342周を完走した
24時間耐久レース▲フェラーリのル・マン24時間レースにおける勝利は、1965年の250LMによる58年振りの快挙だった
文/藤野太一、写真/Ferrari S.p.A.、トヨタ自動車