▲平成カーラバーズ▲こちらが「平成カーラバーズMEETING 2nd」主催者の皆さん。前列の3人がその中心人物たちで、中央が代表の加藤祐馬さん。左が某自動車メーカーの若手カーデザイナーである松下伸彦さんで、右がガレージBARを営んでいるという成田裕貴さん

表面的にはクールだが、その内部には「真っ赤なマグマ」が?

平成世代って、車離れに限らず『○○離れ』みたいな現象の代表格として扱われがちじゃないですか? それが悔しいんですよ」

「悔しいし、『違うぞ! 別に離れちゃいないぞ!』って、ちゃんと伝えたいんですよね」

「自分たちの世代が、例えば100年後の社会資料で『ネガティブな何か』としてまとめられるのは耐え難いものがあります。違うよ、実際はそうでもないよ、ってちゃんと伝えておきたい」

「昭和世代の先輩たちと比べて表現方法は違うのかもしれません。でも、胸に秘めてるアツいものは同じなんですよ。たぶん」

平成生まれと思しき青年たちが何やらアツく語っているが、ここはNHKのEテレとかで夜7時半ぐらいからやってる「若者の討論番組」の収録現場ではない。

「平成カーラバーズ」なる、その名のとおり平成生まれの自動車愛好家が平成生まれの車好きのために興した任意団体が、去る11月9日に横浜市で開催した2回目のイベント、その名もズバリ「平成カーラバーズMEETING 2nd」にて、青年幹部の皆さんが筆者(中年)に語ったことだ。

「もちろんその果実表面にはまだ青みが残り、手触りもどこかひんやりとしている。だがその内部では、真っ赤なマグマのような何かが静かに対流している」

それが、平成カーラバーズを運営している青年らに話を聞くと同時に、「平成カーラバーズMEETING 2nd」に集まった若き男女の皆さんに生の話を聞いてみての、筆者の印象だ。
 

▲平成カーラバーズ
▲平成カーラバーズ
▲平成カーラバーズ ▲11月9日に開催された「平成カーラバーズMEETING 2nd」には約50台が集結。参加車両は国籍も年代も多種多様で、ここ最近見かける機会が少ないように思えるビュイック ロードマスター(写真上の手前から4番目)の姿も

「これだからゆとり世代は……」と言われたくない

彼らが自主制作のムック本『平成カーラバーズ』(2019年7月発行)を作ろうと思った理由。それは「実は思いつきだった」と、代表の加藤祐馬さんは言う。

「あの本を作ろうと思った頃、ちょうどTwitterで『#平成最後の夏』ってハッシュタグが流行ってたんですよ。で、それを見てなんとなく思ったのは『ああ、平成も終わりか。……50年後の歴史教科書とかでは〈平成とは、車離れが加速した時代であった〉みたいにまとめられちゃうんだろうな。……それ、ちょっと嫌だな』ということでした。なぜならば、決してそんなことはないからです」

もちろん傾向としてシュリンク(縮小)はしているのかもしれないが、平成世代の全員が「車に興味がない」なんてことは絶対にない。実際、自分も車好きであり、自分のまわりにも「車が好きだ」という同世代は多い。

自分を含むそういった人々が「なかったこと」にされるのは耐え難い――と考えた加藤さんは「じゃ、同世代の車好きの姿を収めた紙の本(ムック)でも作ってみるか」と思いつく。

▲平成カーラバーズ▲風貌的にはおっとりとしたイメージで、語り口も静かなまったり系なのだが、その身体と精神の内部には「アツいもの」を秘めていると思われた代表の加藤さん

デジタルネイティブな世代ではあるが、100年後の図書館で現在のデジタルデータが開けるかどうかはわからない。まったく別の形式なり概念なりに変わっている可能性もあるからだ。

だが「紙の本」であれば、保管方法次第で100年でも200年でも残る。そしてそれを開いて中を見るのに「データ形式」は問わない。

最初は加藤さんひとりだけでの活動だったが、自らの考えなどをSNSで発信していくにつれて徐々に賛同者が集まっていった。そして本稿冒頭のコメントを発した成田裕貴さんや松下伸彦などとともに、「自分たちだけで作る車雑誌」の制作を始めることにした。

「……でも最初に一度クラウドファンディングで発行資金を募った際はぜんぜんダメで、『平成のうちに発行したい』という夢はあえなく潰えました(笑)」

だが、加藤さんらは「思いつき」を放棄はしなかった。

「だって、そこであきらめたら『ハッ、これだからゆとり世代は(笑)』とか鼻で笑われるだけじゃないですか? 『そんなことはない! 僕ら平成生まれにだってちゃんと根性や行動力はあるんだよ!』ってことを見せないといけませんから、あきらめるという選択肢はありませんでした」

クラウドファンディングで集まる予定額を自腹でつっこみ、土日返上で飛び回って取材。原稿やデザインも皆で作り、2019年7月、元号は「令和」になってしまったが、とりあえず『平成カーラバーズ vol.1』は完成した。
 

▲平成カーラバーズ ▲雑誌作りのプロではない自分たちだけで制作した、2019年7月発売のムック「平成カーラバーズ」を手にする主催者たち。第2弾も出版するべく、現在鋭意準備中とのこと

表層部分は昭和世代と異なるが、「中身」はおおむね似たようなもの?

皆さんそれぞれプロの若手社会人として仕事をしているものの(一部、学生さんのスタッフもいるようだが)、雑誌作りに関しては素人である。それゆえ雑誌編集歴23年の筆者から見ると、『平成カーラバーズ vol.1』には作りとして甘い箇所が多々ある。

だが、逆に言えば「未経験だからこそできたライブ感」のような魅力が、この本には確かに存在している。むしろ「歴23年のオレ(筆者)には絶対に作れない、ある意味素晴らしいムック本だな……」とも思っている。同書はアマゾンやイベント会場などで購入することができるため、ご興味のある平成世代のカーラバー各位はぜひお手にとっていただければと思う。

そしてイベントといえば、この話を代表の加藤さんらに聞いている真っ最中である「平成カーラバーズMEETING 2nd」には結局、何台ぐらいが集まったのか?

▲平成カーラバーズ▲本職は「若手のカーデザイナー」である松下さん(手前)は、ムック「平成カーラバーズ」では副編集長業務と誌面デザインを担当した

「おおむね50台ぐらいといったところですね。見てのとおり車種的にも年齢的にも非常に多種多様な車と人が、おかげさまで集まってくれました。今後の具体的な開催予定は……まぁ細かく決まってはいないのですが、そのうちまたイベントをやりますし、『平成カーラバーズ』のvol.2もぜひ作りたいと考えています」

……老婆心ながら「細かく決まってはいないのですが」で大丈夫なの???

「ま、大丈夫ですよ(笑)。僕たちはかっちりした会社でも団体でもないですし、何かこう確固としたビジョンを共有しているわけではないんです。でも、車好きな人間を増やすと同時に『カーライフの愉しさ』を伝えていきたいという基本的な理念は共有できているつもりです。

その理念をベースにこれからもいろいろな活動をしていきますし、何よりvol.1でお世話になった方々に『恩返し』がしたい。そのためにも、コアな車好きは元より、そうではない『車にぜんぜん興味なしの彼女さん』とかも普通に来れて、そして『……もしかして車って愉しいのかも?』と感じてくれるようなイベントとコンテンツを作っていくつもりです。ぜひご期待ください」

▲平成カーラバーズ▲本業は埼玉県草加市にあるガレージBARのオーナーだという成田さん(手前)だけあって、インタビュー中はお若いながら経営者ならではの鋭い意見を連発していた

このあたりの(筆者のような昭和世代から見た場合の)ゆるさは、平成世代ならではなのだろう。

筆者が若者だった頃は、スマホはおろか携帯電話すら存在していなかったため、友人との待ち合わせは「何時何分にどこどこで! 遅れる人には東横線の掲示板に行き先を書いとくから!」みたいな物事の決め方をせざるを得なかったわけだが、そのあたりの感覚はもはやまったく違うのだろう。

だが、「車が好きだ」「その思いや愉しさを、なんとかして他者に伝えたい」という部分に関して、昭和中期生まれの筆者と平成初期生まれの彼らとの間にそう大きな違いはないようにも感じられた。
 

▲平成カーラバーズ▲お若い世代の「挑戦」を、昭和のおじさんとしても陰でこっそり応援したいと思います!
文/伊達軍曹、写真/小塚大樹、塚本直也
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。