シトロエン グランドC4ピカソ ▲「EMP2」という新世代のプラットフォームを採用して2014年10月に上陸したフランス製MPV「シトロエン グランドC4ピカソ」。写真はCITROEN小平が販売する走行5.6万kmのフィールBlueHDiで、支払総額は240万円

栄えある「格安名車」を探し出せ!

こちらは4月27日発売の雑誌カーセンサーEDGE 6月号に掲載された、自動車評論家・永福ランプ(清水草一)さんの人気連載「EDGE Second Line」の、担当編集者から見た別側面である。アナログレコードで言うB面のようなものと思っていただきたい。

なお「EDGE Second Line」というのは、「車両価格が手頃=エラい! 賢い! おしゃれ! と定義したうえで、栄えある格安名車を探し出そうじゃないか」というのが、そのおおむねの企画趣旨である。

で、カーセンサーEDGE 6月号の同連載で取り上げた中古車は、2016年式のシトロエン グランドC4ピカソ フィールBlueHDi。走行5.6万kmで支払総額240万円という個体であった。

この個体に限らずシトロエン グランドC4ピカソは「諸事情によりミニバンは絶対に必要だが、しかしミニバンは買いたくない」という、何やら矛盾した思いを抱いている人に最適な選択肢なのでは? というのがB面担当者の結論だ。

そう結論づけた根拠について述べる前に、シトロエン グランドC4ピカソという車についての概要をざっくりとご説明しておこう。
 

シトロエン グランドC4ピカソ

トヨタ ヴォクシーと全長はおおむね同じだが、幅と高さは異なる

2代目のシトロエン C4ピカソおよび初代グランドC4ピカソは、日本では2014年10月に発売されたフランス製MPV(マルチパーパスビークル)。前者が5シーターのMPVで、後者すなわち車名の頭に「グランド」と付く方は、3列シートの7シーター車である。

今回の取材車両であるグランドC4ピカソのボディサイズは全長4600mm×全幅1825mm×全高1670mm。これは同じ3列シートの輸入MPVである現行型フォルクスワーゲン ゴルフ トゥーランとおおむね類似するサイズで、国産車でいうと「現行型トヨタ ヴォクシーと全長は同じぐらいだが、車幅は10cmほど広く、全高は22cmぐらい低い」といったサイズ感になる。

エクステリアデザインは、薄型のLEDヘッドランプや3D LEDタイプのリアコンビネーションランプなどがめっぽう洒落ていて、インテリアも、インパネ中央の上段にデジタルメーターを配したセンターメーター方式のディスプレイが超絶おしゃれ。

そしてシートは全席独立式で、2列目と3列目についてはクラストップレベルの空間が確保されている。
 

シトロエン グランドC4ピカソ▲薄型のLEDヘッドランプがひたすらおしゃれ。取材車両のボディカラーは2016年11月の後期型から採用された「サーブル」という、これまた絶妙におしゃれな色味
シトロエン グランドC4ピカソ▲広大なフロントガラスにより開放感は抜群。さらに「パノラミックガラスルーフ」も全車標準装備
シトロエン グランドC4ピカソ▲シートは全席独立式。助手席にも可倒機構が採用され、2.75mの長さの荷物を積むことが可能。それにしても、なんともしゃれた質感とデザインのファブリックだ

当初のパワートレインは最高出力165psの1.6L直4ガソリンターボ+6速ATのみだったが、2016年11月のマイナーチェンジ時に最高出力150ps/最大トルク37.7kgmを発生する2L直4ディーゼルターボエンジンを追加した。

今回の取材車両は、このマイナーチェンジ時に200台のみ販売された「グランドC4ピカソ シャイン フィールBlueHDi」という限定車。

前述の強力なディーゼルターボエンジンを搭載しつつ、レーンキープアシストや、アクティブクルーズコントロールのアクティブ機能を省くなどして、レギュラーモデルよりも8万円お安い価格設定とした1台だ。
 

国産ミニバンは「オラオラ系」か「人畜無害系」のほぼ二択だが?

さて。そんなこんなのシトロエン グランドC4ピカソという車に接してみれば、ほとんどの人間が第一印象として抱くのは「な、なんておしゃれなんだ!」という感慨であるように思える。

現在、一般的に流通しているMPV=3列シートのミニバンの第一印象は、多くのケースで「やたらとオラついた印象のエクステリアデザインだなぁ……」というものであるだろう。そうでなければ、その真逆の「あまりに人畜無害な、所帯じみたデザイン」ということになる。

物のデザインないしは“車”というものが好きな人間の多くは、そういったオラオラ系デザインや所帯じみてる系デザインに拒否反応を覚えつつも、「でも他に選択肢がないから」という理由で、それらを購入することになる。

もちろん、誰もそれを責めることなどできない。
 

シトロエン グランドC4ピカソ▲デジタルメーターは3タイプの表示から好みの表示方法を選ぶことができるが、多くのグランドC4ピカソユーザーは、往年のシトロエンCXやBXなどに用いられた「ボビンメーター風」の表示(写真上)を選択しているという

家族が増えれば、人間の数だけでなく車内に持ち込むべき用品の種類と量も増え、そして「ある程度の天井の高さ」も、どうしたって必要になる。

そうなったとき、家族全員の生存と成長に対して責任を負う立場にある者は、「本当は、自分はステーションワゴンが好きなんだけどね」なんてことは言っていられなくなり(または、自分の趣味嗜好うんぬんよりも“家族”の方が何億倍も重要だと思うようになり)、オラオラ系または人畜無害系の3列シート車を、「我が家の車」として採用することになる。

それは致し方のないことであり、物事の当然の帰結なのだ。

だがしかし、国産車だけでなく「輸入車のMPV」にも目を向けてみれば――いくつかの「家族の満足や安全等を十分に保証しながら、己のおしゃれセンスも犠牲にしないで済む選択肢」があることに、人は気づくだろう。

そしてそんな貴重な“いくつか”のうち一つが、こちらのシトロエン グランドC4ピカソなのだ。
 

シトロエン グランドC4ピカソ▲ステアリングホイールのパッド部周辺には、クルーズコントロールやカーオーディオなどのスイッチが並ぶ

ゴルフ トゥーランも魅力的だが、「総合おしゃれ性能」はどうか?

輸入MPVには何車種かある「家族の満足や安全等を十分に保証しながら、己のおしゃれセンスも犠牲にしないで済む選択肢」のうちひとつは、フォルクスワーゲンの「ゴルフ トゥーラン」だろう。

フォルクスワーゲンならではの堅牢な車台および車体に、高性能なダウンサイジングターボエンジンとDCTを組み合わせた3列シート車であるフォルクスワーゲン ゴルフ トゥーランは、確かに素晴らしい1台だ。
 

シトロエン グランドC4ピカソ▲こちらがフォルクスワーゲンのゴルフ トゥーラン。写真のグレードはTDIハイライン

ボディサイズはシトロエン グランドC4ピカソとおおむね同じであるゆえ、つまり「バカでかくはないサイズ」であるため、日本の道でも扱いやすい。そして内外装デザインもオラついておらず、かといって所帯じみたニュアンスでもないという、なかなかしゃれたものだ。

それゆえ、もしもドイツ的な「硬いデザイン」を好むのであれば、ゴルフ トゥーランを選ぶのも悪くない。いや悪くないというよりも、むしろ素敵な選択と言うべきだろう。

しかし世の中には「ドイツっぽい世界=比較的無機質な、整理整頓がきわめて行き届いたマジメな世界」をさほど好まない人間も――筆者を含め、それなりの数がいる。

そういった人、つまり国産ミニバンのオラついた世界も所帯じみた世界は好きになれず、しかしドイツ的な無機質世界もあまり好みではないという人間が、もしも3列シート車を導入する必要性に迫られたら?

おそらくは現状、このシトロエン グランドC4ピカソが、または諸事情により車名が変わったグランドC4スペースツアラーこそが、唯一の選択肢となる。かく言う筆者も、もしもその必要性が人生において発生しなたならば、迷わずこれを選ぶだろう。
 

シトロエン グランドC4ピカソ▲3列目シートはワンタッチで簡単に格納可能。必要のないときは畳んでおけば、645Lという広大なラゲージスペースをフル活用できる

後部ドアがスライド式ではなくヒンジ式であるというのは正直、小さな子供のいわゆるドアパンチを防止する意味では不利となる。

だがそれを踏まえたうえでもなお、シトロエン グランドC4ピカソが持つデザイン性の高さと、もちろん後期型ディーゼルターボエンジンの力強さや、2列目・3列目の居住性の高さには、「自分にはこれしかない!」と思わせるだけの魅力がある。
 

文/伊達軍曹、写真/阿部昌也、フォルクスワーゲン

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伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。