ランドローバー レンジローバースポーツ SV エディションワン▲レンジローバースポーツの2024年モデルに合わせて登場したハイパフォーマンスバージョン。最高出力635psのV8ターボエンジンや油圧連動式6Dダイナミクスエアサスペンションなどにより走行性性能を大幅に向上させている。なお、初年度は台数限定のエディションワンのみが導入された

モデルの個性をさらに引き上げた特別なトップグレード

レンジローバーブランドの主役は今やレンジローバースポーツだ。販売台数のおよそ半分を占めている。そんな“レンスポ”の中でも、先代に存在した高性能版グレード「SVR」は、レンスポのイメージアップに大いに貢献した。

2023年7月に日本でも披露されたレンジローバースポーツの高性能版は単にSVと呼ばれる。エディションワンは全世界2500台の限定で、日本へは75台がやってくるにすぎない。すでに完売御礼だ。

レンジローバースポーツ SVはSVRの事実上の後継グレードである。なぜRを取ったのか? 実はSV(スペシャルビークル・オペレーションズ)という特別なブランドをAMGやMのように確立するための戦略である。

レンジローバーの各モデルにはそれぞれに個性がある。その個性を引き上げたモデルというのがSVの位置付けとなった。レンジローバー SVといえば超高級ラグジュアリー路線のグレードで、レンジローバースポーツ SVといえば以前のSVRと同じくスポーツ性能を著しく引き上げたグレード、ということになる。ちょっとややこしいが、今後はレンジのSVというと各モデルの個性を追求した最上級グレードであると考えればいい。

レンジローバースポーツ SVでまずは注目したいのはエンジンだ。レンジローバーの8気筒エンジンというと、ディフェンダーなどとは違ってBMW製である。そしてSVにはなんとBMW MのSエンジンが積まれた。マイルドハイブリッドのS63B44エンジンが振り絞る最高出力は635ps! 本家のMモデルを上回るスペックだ。
 

ランドローバー レンジローバースポーツ SV エディションワン▲最高出力635ps/最大トルク750N・mの4.4L V8ツインターボエンジンを搭載。0→100km/h加速3.8秒、最高速度290km/hを誇る

カーボンパーツを贅沢にあしらったエクステリアデザインも特徴のひとつ。中でも23インチのカーボンホイールや専用デザインの巨大なブレンボ8ポットフロントブレーキ、カーボンセラミックローターといったパフォーマンス面での差別化がもはやスーパーカー級だ。

エンジンの他にもうひとつ性能を語るうえで重要な役割を果たしているのが、6Dダイナミクスと呼ばれるアクティブエアサスペンションシステムである。高性能SUV専用に開発されたピッチ&ロール制御付きの油圧連動式アクティブサスで、これによりSUVらしい乗り心地と安定感、そしてダイナミックなハンドリング性能を実現した。
 

ランドローバー レンジローバースポーツ SV エディションワン▲テールパイプフィニッシャーやロゴ、ボンネットなどにカーボンを採用することで、よりスポーティなスタイルとした
ランドローバー レンジローバースポーツ SV エディションワン▲バネ下重量を抑える、23インチのカーボンファイバーホイールをオプションで採用。ブレンボ製カーボンセラミックブレーキもオプションで用意する

ポルトガルで開催された国際試乗会。ルブタンのホテルからカーボンブロンズというマットカラー(それだけで+300万円だという)のエディションワンで走り出した。もちろんカーボンホイール装着車だ。

走り始めてすぐ、乗りやすさと扱いやすさに感心する。乗り心地のよさも相当で、自転車用のように大きく、スーパーカー用のように薄いタイヤを履いているとはとてもじゃないが思えない。タイヤはミシュランパイロットスポーツのオールシーズン4だった。もちろんLR(ランドローバー)の刻印入り、つまりは専用コンパウンドだ。

ステアリングフィールは軽すぎず重すぎず、タイヤの存在感を適切にドライバーへと伝えるセッティングだ。おかげで思いどおりに動かせるという感覚と、“SUVならでは”な高い視線とが相まって、どんな場面でも(オフロードでも)自信を持って進んでいけた。その間、S63エンジンはというとノーズの先の方で静かに唸っていただけだ。

エンジンの実力を試そうと心地よいエグゾーストノートを聴きつつ、カントリーロードを結構なペースで駆け巡った。6Dダイナミクスの効果はすでにテキメンで、フラットライドを自然に心地よく楽しむことができる。ピッチはほぼなく、ロールは右足の踏み込みをためらわなくてすむ程度に抑えられた。フラットライドでありつつも、タイヤの位置や傾きが手に取るようにわかる。大きさと重量をまるで感じさせないドライブフィールが驚異的である。

真骨頂はサーキット走行だった。太いサウンドによって過激に演出された加速と、強力無比なストッピングパワーに驚愕する。コーナリングも素晴らしい。低速から高速すべてのコーナーにおける姿勢はもはや大型のFRスポーツカーのよう。腰が常に沈み込み、ひたすら身体を任せて踏み込める。出口に向け尻と腰とが心地よく押される感覚すらあった。サーキットで今、最も楽しいSUVだと思う。

オフロード走行にも挑戦した。そこで使用する個体にはカーボンホイールが非装着でホッとした。サーキットであんなに楽しかったSUVが、今度は四肢を生き物のように個別に動かして急な坂道や悪路をこなしていく。その制御はもはや熟練のクロカンドライバー不要というべき上手さで、“ランドローバー”としての基本の機能を全うしていた。

レンジローバースポーツ SVでオフロードを走るようなユーザーはいないだろう。使うとすればせいぜい砂漠の王族くらいだろうか。それでも道を選ばない走破性にレンジローバーブランドの価値はある。そこはかたくなに守り抜いていたのだった。
 

ランドローバー レンジローバースポーツ SV エディションワン▲6Dダイナミクスエアサスペンションの採用により、車高はベーシックグレードより10~25mm低く設定
ランドローバー レンジローバースポーツ SV エディションワン▲フロントはエアフローを強化したデザインに変更されている
ランドローバー レンジローバースポーツ SV エディションワン▲インパネはベーシックモデル同様のすっきりしたデザイン。前席にはサウンドを全身で感じることができるボディ&ソウルシートを採用する
ランドローバー レンジローバースポーツ SV エディションワン▲ライトアップされたSVロゴが備わる、ヘッドレスト一体型SVパフォーマンスシートを装着
文/西川 淳 写真/ジャガー・ランドローバー・ジャパン

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。

ランドローバー レンジローバースポーツ(現行型)の中古車市場は?

ランドローバー レンジローバースポーツ

レンジローバーシリーズの中でもよりオンロードの走行性能に注力したプレミアムSUV。2022年に登場した3代目となる現行型は、フラッシュサーフェスされたスッキリしたスタイルが特徴的だ。日本にはディーゼルエンジンモデルと限定仕様(ローンチエディション)のガソリンエンジンモデルから導入され、2023年6月に発表された2024年モデルで、ガソリンエンジンモデルとPHEVモデルが追加設定されている。

2024年4月前半時点で、中古車市場には40台ほどが流通。半数程度がガソリンエンジンのローンチエディションという状況。2022年登場モデルのため流通物件の年式も新しく、走行距離は1万km未満がほとんど。個体の品質差も少ないので、ボディカラーや装備などで比較・検討してみるのが良いだろう。
 

▼検索条件

ランドローバー レンジローバースポーツ(現行型) × 全国
文/編集部、写真/ジャガー・ランドローバー・ジャパン