▲現行アウディA3スポーツバック(左)とルノー キャプチャー。A3の超絶完成度には度肝を抜かれました ▲現行アウディA3スポーツバック(左)とルノー キャプチャー。A3の超絶完成度には度肝を抜かれました

「伝説は伝説でしかない」という、厳しいが当たり前の事実

「ティーガー(タイガー)戦車が好きすぎるのも、少々考えものだな」。それが、写真上の2台、特に向かって左の最新型アウディA3スポーツバックに乗ってみての筆者の感想だ。

どういうことか、説明しよう。旧ドイツ軍のティーガーⅠといえば、筆者のようなタミヤ世代、松本零士先生の「戦場まんがシリーズ」で育った世代にとっては“最強戦車”の代名詞である。しかし最強といっても、それはパソコンどころかマイコンすら誕生していなかった70年前のことで、最新のデータリンクを駆使して戦う現代の戦車とティーガーⅠがもしも戦えば、ティーガーは5秒ともたないだろう。1960年代の初代ホンダF1(RA271)が、2014年シーズンのメルセデスAMGに勝てるわけがないのと同じことだ。

そういった意味で言うと最新のアウディA3スポーツバックとは、現代の戦車のようなものだ。鉄とゴムとコンピュータとが最新テクノロジーと思想によって見事に融和し、その結果としてひたすら精密・緻密にして軽やかな、そして情緒的な部分にも十分以上に訴えかけてくる完璧な移動体として、完成している。もうね、「お見事!」としか言いようがないですよ。これと比べてしまうと、筆者がついこの間まで乗っていたランチア デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡという1994年の車は「ティーガーⅠ」だ。伝説であり、いまだ世界的な人気者ではあるが、現代の兵器と互角に戦える代物ではないのだ。

▲第2次世界大戦当時のドイツ軍のティーガーⅠ戦車 ▲第2次世界大戦当時のドイツ軍のティーガーⅠ戦車

もちろんそんなことは当然であり、筆者もハナからわかっている。中古車の仕事が中心ではあるが、新車がらみの仕事をやらないわけではないので、最近の輸入車の(特にドイツ車の)仕上がりが物凄いことになっていることも、いちおう知ってはいるつもりだ。

しかし、心情的に「とにかくティーガーⅠ的な車(要するに古い車)が好き!」というのが根本にあるため、そして現行アウディA3スポーツバックほどの超逸材には出会っていなかったため、いまいち現実が目に入っていなかった部分はある。見ていたようで実は全然見ていなかった、というか。もったいないことである。現在の世の中にはこんなにも素晴らしい乗り物があるというのに、過去のそればかりに拘泥するとは。

もちろん、普通の社会生活を営む我々が戦車で戦う機会も必要もないのと同じで、我々は車でレースやタイムアタックをするわけではない。いわゆる快適性などについても「そこは別にどうでもいい」と考える人もいるだろう。それゆえ、ランチア デルタなどの「そりゃ性能は最新のアウディと比べれば著しく劣るけど、これが好きだし、カッコいいから、別にこれでいいじゃないか」という姿勢も決して間違いではない。間違いではないどころか、素晴らしい趣味の一つであると依然確信している。

しかし、繰り返すようだが「そこだけに拘泥するのはもったいない」という話である。

▲こういった往年の名車をあえて21世紀に愛でるのも、もちろん悪くはないが ▲こういった往年の名車をあえて21世紀に愛でるのも、もちろん悪くはないが

筆者自身がそういった世界に拘泥しがちな人間だけに、自戒を込めて述べさせていただいた。全員ではないが“ある種の人”にこれが届き、新世代の車にも目を向けていただけたなら幸いだ。ということで今回のわたくしからのオススメはずばり「最新世代のヨーロッパ車(の中古車)」だ。

text/伊達軍曹