BMW i7▲2022年にフルモデルチェンジを果たした7シリーズの電気自動車版がi7。全長5.4mのボディはプラットフォームを内燃機関モデルと共有。BMWらしいドライビングファンを備える

あくまでも走り重視なブランドの“フラッグシップサルーン”

流行りの上下分割ライトユニットと巨大キドニーグリルが賛否両論、というか否が多め、の話題を巻き起こした新型7シリーズ。サイボーグなマキバオー顔に見えてしまうが、上側はデイタイムライトと方向指示器で、本当の“目”=ヘッドライトは下段だ。このマスクデザインコンセプトはBMWの最上級モデルにのみ展開されるらしい。

第7世代となった7シリーズ(G70型)。先代でいうところのL=ロングホイールベースモデルのみで、全長5.4m、全幅2m、ホイールベース3.2m超というからハイエンドサルーンとしての存在感は7シリーズ史上最高レベルに達している。とはいえ、以前に比べるとロングボディらしさをあまり感じさせない。ついでに車高も60mmほど上がっているからだ。バッテリーをフロアパン(床下)に積んだからなのだが、コンフォートネスを向上させる仕掛けも高さには影響している。

トップグレードはi7と、遅れて導入されるi7のMパフォーマンス仕様のM70 xドライブで、いずれもフル電動車(BEV)だ。電動モデルとしては他にストレート6+モーターのPHEV、M760e xドライブも発表済み。内燃機関(ICE)グレードとしてはストレート6のガソリン&ディーゼルターボ、V8ツインターボで、V12を除けば従来と同様のラインナップを維持している。いずれも48Vのマイルドハイブリッド仕様だ。

最高出力のスペック順に並べてみよう。600ps以上と噂されているM70が最上位か。次にシステム総合出力571psのM760e。そしてこのツインモーター544psのi7となる。日本市場ではi7の他、6気筒のガソリン&ディーゼルエンジン搭載モデル(740i、740d)を用意した。

メルセデス・ベンツのフラッグシップは、ICE(内燃機関)とBEVのプラットフィームを完全に分離した(SとEQS)。けれどもBMWは共有する。エンジンの可能性も捨ててはいないという強い意志表示でもあるだろう。要するに新型7シリーズ(G70型)は走り重視のブランドにおけるフラッグシップモデルゆえ、ユーザーの選択の幅を広げるとともに、その差異をできるだけ減らそうとしているのではないか。試乗で確認したかったこともまた、それに尽きた。
 

BMW i7▲内外装の仕様はエクセレンス(写真)とMスポーツが選択可能
BMW i7▲前後2基のモーターによりシステムの最高出力544ps/最大トルク745N・mを発生。101.7kWhのバッテリーを搭載し、航続可能距離は650kmとなる

取材車両はそのサイズ感と分厚さ、そしてオキサイド・グレー×タンザナイト・ブルーの2トーンカラーによって“ほとんどロールスロイス”な、i7 xドライブ60 エクセレンスだった。

リモコンキーでドアを開けた。デジタルキーシステムも設定されており、手持ちのスマホでも操作できる。乗り込んでまず目を引いたのは、水平基調で微妙に湾曲した横長のディスプレイ、ではない。その下にある左右のドアまで伸びたクリスタル調オーナーメントの方だった。そこには空調調整やパワードア操作、シートポジションメモリーなどの静電スイッチ類が隠されており、しかも好みの色合いにグラフィックを変更できる(ドライブモードでも色が変わる)。ごく限られた物理スイッチやパネルの質感なども含め、ディテールは市販モデルの中でも抜群に上等な仕立てだ。

前席はまだしも全体的にシンプルな仕立てで次第に目も慣れる。さらにすごいのは後席で、運転席をスタッフに譲ってエグゼクティブ・ラウンジ・シート(オプション)仕立ての後席に座ってみれば、31.3インチシアタースクリーンの迫力に圧倒された。ちょっと近すぎる気もするが。
 

BMW i7▲12.3インチのインフォメーション・ディスプレイと14.9インチのコントロール・ディスプレイを組み合わせたBMWカーブド・ディスプレイを採用

もっとも、そんな内外装の見栄えよりはるかに驚かされたのが、ドライブフィールだった。BEVであっても完全に“7シリーズ”の進化版だとわかる。ライバルのSクラスとEQSとでは走りの差が顕著だったが、新型7シリーズはICEの740dと基本的には同じベクトルのドライブフィールを実現している。重心高をあからさまに低く感じるような=分厚い板に載っかってドライブしているような、BEVらしいフィールを感じることはなかった。

静かさはもちろん一級品。加速フィールはすこぶるスムーズでリニア。モーターのトルクではじき飛ばされるような無粋さとは無縁だ。もちろんスポーツモードを選んで踏み込めば、あっと驚く加速態勢に移る。けれども、そんな子供じみたことは一度試せばそれで気が済む。それよりもじわじわと気持ち良く加速することのほうが嬉しいと思えるのだ。精神的に安全運転を促すという点で、“静かな完成度の高さ”は有効だろう。

もちろん、ハンドリングにはちゃんとBMWらしいファンが備わっていた。望めばドライビングファンに浸ることもできる。峠道だって苦にしない、どころか得意な方だ。けれども、それもたまに試すことができればいいだろう。普段はできるだけ静かに穏やかに走ってこそ、i7の値打ちがわかるというものだ。
 

BMW i7▲撮影車両は20インチホイールを装着。21インチホイールも用意されている
BMW i7▲ドアのスイッチ類はクリスタルのバーに組み込まれている。シート調整のスイッチもクリスタル製
BMW i7▲メリノレザーとカシミアのコンビシートをオプションで用意。ドアは自動開閉も可能となっている
BMW i7▲後席左側シートにはオットマンが備わる
BMW i7▲後席前方に31.3インチのシアタースクリーン(オプション)を配置
文/西川淳 写真/郡大二郎、ビー・エム・ダブリュー

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。

ライバルとなるメルセデス・ベンツ EQSの中古車市場は?

メルセデス・ベンツ EQS

メルセデス・ベンツ初の電気自動車専用プラットフォームに、BEVならではのパッケージを生かして、空力性能に優れた外観や機能的な内装デザインを採用したEQシリーズの最上級モデル。航続可能距離は国内販売モデル最長の700km(EQS 450+)となる。

2023年2月上旬時点、発表後半年未満ながら、中古車市場には早くもEQS 450+とEQS 53 4MATIC+が1台ずつ流通していた。当然、どちらも走行距離が少なく、パッケージオプションなど装備も充実しているので、新車を待つくらいなら……という方は、そろそろ中古車マーケットのチェックを始めてみると良い出合いがあるかもしれない。
 

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文/編集部、写真/メルセデス・ベンツ日本