西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 メルセデス・マイバッハ GLSの巻
カテゴリー: 特選車
タグ: メルセデス・マイバッハ / SUV / 4WD / GLS / EDGEが効いている / 西川淳 / c!
2021/09/13
ショーファードリブンでもある、圧倒的存在感のラグジュアリーSUV
さすがにここまでくると、好きとか嫌いとかいう範疇を超えて、ただただひれ伏すしかなさそうだ。GLSベースのマイバッハ。マイバッハとしては初めてのSUVで、これまた大人気らしい。なんでも現在はオーダーストップ中というから驚く。中でもツートーンカラーへの注目がすさまじかったらしく、幸運にも買えたという人は最初期にミズテンでオーダーを入れた人だけ。先日、都内で白とシルバーツートンを目撃したけれど、確かに色味が変わるだけで随分と見た目の印象も異なった。あれは今なら高く売れそうだ。
というわけで、本当はツートーンを用意したかったという広報車も、赤メタ単色になってしまったわけは、そういう経緯があってお客用を優先したためらしい。それにツートーンを待っていたら広報車でさえも納車がいつになるかわからなかったという。
実は最近のコロナ禍&半導体不足による生産量の減少で、特に人気モデルのタマ不足が甚だしく、売るに売れないというインポーター&ディーラーにとっては歯がゆい状況が続いている。そういうわけなので、勢い、メディアが試乗や撮影用に使う個体も販売に回るケースが多発。我々も乗るに乗れないというモデルが散見される。例えば、メルセデス・ベンツでいうとG400dがそうだ。カーセンサーEDGEでは独自のネットワークを駆使して、近々、G400dの試乗リポートもお届けする予定だが、それはさておき……。
たとえ、モノカラーでも存在感は圧倒的なマイバッハGLSである。新品の焼き網のようにギラギラと輝くグリル類は専用デザインで、シルバースターのフードマスコットが装備されている。メルセデスのSUVでこれが装備されるのはこのモデルのみだ。それだけ特別だということである。輪をかけて派手ないでたちを見せるホイールは、これまたメルセデス初23インチ鍛造ホイール。あまりに派手すぎて正直、最後までしっくりこなかった。サードパーティによるちょっとしたドレスアップ仕様に見えてしまうのだ。
正式名は「メルセデス・マイバッハ GLS 600 4マチック」である。M177型4L V8ツインターボに48ボルトシステムとISGシステムを加えた、いわゆるマイルドハイブリッドパワートレーンを積む。システム統合時の最高出力は558psで、最大トルクは730N・m。
マイバッハ GLS最大の魅力を知るにはドアを開けてもらわなければならない。ベースはもちろんGLSで、SクラスベースのマイバッハSクラスとは違い、ボディサイズに変更はない。けれども、本来3列シート仕様であるGLSの3列目を取り外し、2列目を120mmも下げて贅沢な4シーターとした。後席のセンターには冷蔵庫もあって、シャンパンクーラーも備わる。グラスは割れないメタル製、というあたりに実用主義のドイツ車らしさが垣間見えた。本当に飲むのなら、割れてもいいからガラスのグラスがいいと思うけれど、メタルグラスでの味わいはこれいかに???
見るからに快適そうな室内を支える足回りは、メルセデスお得意の「Eアクティブボディコントロール」というサスペンションシステム。各アシを48ボルト対応のアクチュエーターで制御する。路面状況を読み取る「ロードサーフェススキャン」ももちろん備わった。
とまぁここまで書けば、もはやドライブを自ら楽しむ車ではないこともわかっていただけそうだが、筆者はあえて東京から京都へのロングドライブに連れ出し、ショーファーになり代わり運転を楽しんでみることに。
結論から言うと、その乗り味はまさにGLSクラスで、マイバッハだからといって格別に素晴らしいというわけではなかった。そもそもベースのGLSクラスが素晴らしい。それに輪をかけて素晴らしくすることなんて、なかなか難しい。逆に言うと、マイバッハだからといって何か特別に気を使ってドライブする必要もない。実際、筆者はまるで新車だったマイバッハGLSで京都までのドライブのみならず、福井まで食事に出かけたり、狭い京都市内をグルグル走り回ったりと、大活躍してくれた。真っ白なインテリアには随分と気を使ったが。
自らステアリングホイールを握っている限り、マイバッハの魅力はわからないのではないか。そう思った筆者は信用のおける友人にハンドルを託し、43.5度もリクライニングするリアシートに腰掛けて数百キロのショーファードリブンを味わってみることに。
すると、どうだ。ドライブモードを専用のマイバッハにすると、これがもう極上の乗り心地で、あっという間に落ちてしまいそうになった。ひたすらに静かだ。上下動も少なくパソコンを取り出して原稿だって書ける。リアシートに限ってはロールス・ロイスに匹敵すると思う。前席はそこまで良いとは言えないのだが。
結論。これは新しいジャンルのリムジンである。後ろの席でふんぞりかえってよい身分であれば、選択肢のひとつとして考えてもいいだろう。ロールス・ロイス カリナンより随分とお買い得だ。
セダンに比べて乗り降りしづらいだろうって? いや、そんなことはない。マイバッハ GLSには、自動で出てくる巨大な踏み台が備わっていた。気をつけないとスネを痛く打つけれど。
SUVらしさ、つまり一体感を犠牲にしても大らかな気分にさせるあの乗り味を好きだと思わせるSUVにも出会ってみたい。正統派のSUVでその境地に達することは果たしてできるのだろうか。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
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