フォルクスワーゲン ザ・ビートル ▲フォルクスワーゲン初代ビートル(タイプ1)のオマージュモデル第2世代として登場し、2019年7月に生産終了となったフォルクスワーゲン ザ・ビートル。写真はDESTINO 横浜本社ショールームが販売する走行1.0万kmの2019年式デザイン マイスターで、車両価格は268.8万円

栄えある「格安名車」を探し出せ!

こちらは12月27日発売の雑誌カーセンサーEDGE 2月号に掲載された、自動車評論家・永福ランプ(清水草一)さんの人気連載「EDGE Second Line」の、担当編集者から見た別側面である。アナログレコードで言うB面のようなものと思っていただきたい。

なお「EDGE Second Line」というのは、「車両価格が手頃=エラい! 賢い! おしゃれ! と定義したうえで、栄えある格安名車を探し出そうじゃないか」というのが、そのおおむねの企画趣旨である。

で、カーセンサーEDGE 2月号の同連載で取り上げた中古車は、2019年式のフォルクスワーゲン ザ・ビートル デザイン マイスター。走行1.0万kmで車両価格268.8万円という個体であった。

この個体に限らずフォルクスワーゲン ザ・ビートルは、「いかつい顔の車ばかりになった世の中にウンザリしている人にとっては、なかなか狙い目な選択肢なのでは?」というのが、B面担当者の結論だ。

そう結論づけた根拠について述べる前に、フォルクスワーゲン ザ・ビートルという車についての概要をざっくりとご説明しておこう。
 

フォルクスワーゲン ザ・ビートル▲雑誌「カーセンサーEDGE」2月号で取材した2019年式フォルクスワーゲン ザ・ビートル デザイン マイスター。生産終了直前に発売された特別仕様車で、バイキセノンヘッドライトやマイスター専用17インチアルミホイール等々が標準装備されている

1.2L直4ターボを基本とする「初代ビートル」のオマージュモデル

初代ビートル(タイプ1)のオマージュ系モデルとして誕生した「フォルクスワーゲン ニュービートル」の後を受け、2世代目のオマージュモデルである「フォルクスワーゲン ザ・ビートル」が日本で発売されたのは2012年4月のこと。

当初のパワートレインは最高出力105psの1.2L直4ターボ+7速DCT(DSG)で、導入されたグレードは「デザイン」と「デザイン レザーパッケージ」だった。

翌2013年9月には最高出力211psの2L直4ターボ+6速DSGの「ザ・ビートル ターボ」が追加し、同年10月にはデザイン レザーパッケージに「パークディスタンスコントロール」と純正カーナビを標準装備。

その後、何種類かの限定車をリリースしつつ、2015年6月にはエントリーグレードの「ザ・ビートル ベース」を追加。これは、内外装の各所にシンプルなブラックを採用し、ホイールもキャップ付きのスチールタイプとしたグレードだった。

そして2016年9月にはマイナーチェンジを行い、いわゆる後期型に。

このマイナーチェンジでは、前後バンパーのデザインを変更することで若干スポーティなイメージとし、インテリアも最大32通りのカラーコンビネーションが選べるように。

またドライバー疲労検知システムを全車に標準装備するとともに、「ブラインドスポットディテクション」や「リアトラフィックアラート」も用意し、純正カーナビの機能も大幅に向上している。
 

フォルクスワーゲン ザ・ビートル▲後期型ザ・ビートルのサイドビュー。フロントバンパー付近の造形が前期型よりシャープになっている
フォルクスワーゲン ザ・ビートル▲ボディ同色のパネルがポップで可愛いザ・ビートルの運転席まわり。取材車両は特別仕様車のためレザーマルチファンクションステアリングホイールが装着されている
フォルクスワーゲン ザ・ビートル▲ザ・ビートルの車内はおおむねこのような雰囲気。取材車両はオプション装備だった「ベージュレザーシート」を装着

マイナーチェンジ直後のグレードラインナップは、「ザ・ビートル ベース」「ザ・ビートル デザイン」「ザ・ビートル 2.0 R-Line」の3種類で、ザ・ビートル 2.0 R-Lineは、前期型の「ザ・ビートル ターボ」が改称されたもの。他2モデルを含め、エンジンやトランスミッションに変更はなかった。

しかし同年11月には、1.2Lターボを積む「ベース」「デザイン」と、2Lターボを搭載する「2.0 R-Line」の中間に位置するグレードとして、1.4Lの直4ターボを積む「Rライン」も追加。

このR-Lineはフロントバンパーにクロームストリップがあしらわれ、リアには黒塗装のディフューザーやスポイラーを装着。さらにサイドスカートやホイールハウスの縁も黒く塗装されている。

そして翌2017年7月には純正インフォテイメントシステムが強化された他、「 ベース」「デザイン」でも「ブラインドスポットディテクション」と「リアトラフィックアラート」が標準装備になるなどの変更を実施。

で、さらにいくつかの限定モデルをリリースしたうえで2019年7月10日にメキシコで「最後の1台」を生産したというのが、フォルクスワーゲン ザ・ビートルのざっくりとしたヒストリーだ。

ちなみに今回の取材車両は、2019年の販売終了に先立って行われた「See You The Beetleキャンペーン」の第4弾として、2018年10月に発売された特別仕様車。標準の「デザイン」に対して下記の装備が追加されている。

・バイキセノンヘッドライト(ハイトコントロール機能付き)
・フォルクスワーゲン純正ナビゲーションシステム“716SDCW”
・リアビューカメラ“リアアシスタント”
・2ゾーンフルオートエアコン(運転席/助手席独立調整、自動内気循環機能付き)
・アレルゲン除去機能付きフレッシュエアフィルター(花粉/ダスト除去外気導入フィルター)
・パドルシフト
・レザーマルチファンクションステアリングホイール
・215/55R17タイヤ/マイスター専用7J×17アルミホイール(10スポーク)
 

ちょっとだけわかりづらい「ザ・ビートルならではの魅力」とは?

さて。そんなフォルクスワーゲン ザ・ビートルは、本稿の冒頭付近で申し上げたとおり「いかつい顔の車ばかりになった世の中にウンザリしている人にとっては、なかなか狙い目な選択肢」と言うほかない1台だ。

正直申し上げて、フォルクスワーゲン ザ・ビートルという車に「運転特性としての個性」はさほどない。……と書くと、まるで「あまり良くない」と言ってるみたいだが、そうではない。「普通にいい」ということだ

ザ・ビートルの前身にあたる「ニュービートル」は、ベースこそ同時代のフォルクスワーゲン ゴルフ4という実直な車だったが、それを無理くりファニーな造形に仕上げた車であったため、そこかしこに“アラ”がある1台だった。

まぁニュービートルの場合はそのアラこそが可愛いというか「むしろ愛せる!」という部分だったわけだが、ザ・ビートルはかなり「マジな感じ」で作られた1台であるため、そういったアラはほどんどない。「スポーティにシュンシュン走れるいい車」なのだ
 

フォルクスワーゲン ザ・ビートル▲トランスミッションは7速のデュアルクラッチ式AT(いわゆるDCT)。タイムラグがほとんどない小気味よい変速が持ち味だ

しかしふた昔前はさておき、近年は「スポーティにシュンシュン走れる」なんてのはフォルクスワーゲン ザ・ビートルに限った話ではなく、多くの車がそんな感じまたはそれに近いニュアンスにまで進化している。

それゆえ、先ほど申し上げた「運転特性としての個性」という面だけで見ると、「どうしてもザ・ビートルじゃなきゃダメなんだ!」という要素はあまりないのだ。

だが、「デザイン性と良好な走行性能の両立」といった観点から見ると、フォルクスワーゲン ザ・ビートルという車は途端に、そのワン・アンド・オンリーな性格を露わにしてくる。
 

スポーティなのにカワイイ。そしてカワイイのに意外と硬派

先述したとおり、近年の車はおおむねどれも「スポーティにシュンシュン走れるいい車」になってきている。しかし問題なのは、スポーティにも走れるいい車=ハイパフォーマンスな車であればあるほど、その能力の高さに比例して「顔つきとたたずまい」もいかつい感じになってしまうケースが多いということだ

周囲を威嚇するかのようにつり上がった目つき(ヘッドランプ)と、己のプレゼンスを誇示しまくる巨大なフロントグリル……みたいなものをお好きな人であれば、昨今の状況にも特に不満はないだろう。

だが世の中には、そういった世界観をあまり好まない人種というのもいる。

もちろんそういった人種が「いかつくないデザインの車」を探し出すことは、今なお普通に可能である。

しかしいかつくない車は――あくまで“傾向”としての話であり、例外はいくらでもあるが、「ロースペック」であったり、「妙に(自動車メーカーのおじさん社員が考える)女性向けっぽいデザイン」であったりする場合も多いのだ。

普通にハイスペックでシュッと走れて、それでいて「甘めでカワイイけど、決して甘すぎはしないデザインの車」というものを考えてみると……それは意外と少ないことに、多くの人が気づくだろう。

そんなレアな選択肢を求める人のニーズにピタリとハマる1台が――決してこれが唯一無二の候補というわけではないが――フォルクスワーゲン ザ・ビートルという車なのだ
 

フォルクスワーゲン ザ・ビートル▲なんともホンワカしているフロントマスクだが、決してホンワカしすぎてはいない、ちょうどいい塩梅となっているのがフォルクスワーゲン ザ・ビートルの魅力のひとつ

まぁそんなザ・ビートルにも「ボディの見切りはあまり良くはない」「運転支援システムは貧弱である」という欠点はある。

だが、そこを押してでも選ぶだけのバリューと魅力は、フォルクスワーゲン ザ・ビートルという車のデザインとブランド性にはあるはず。ましてや新車が生産終了となり、もはや中古車としてしか入手できなくなった今、その価値は若干ながら上がっているように思えるのだ。

ここから先は各位それぞれのご判断に任せるほかない。だが、まるで常に怒っているかのような顔つきの車ばかりになってしまった昨今だからこそ、フォルクスワーゲン ザ・ビートルに今一度ご注目いただきたいとの思いは、実は常に抱いている。
 

文/伊達軍曹、写真/阿部昌也

▼検索条件

フォルクスワーゲン ザ・ビートル(初代)×全国
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。