※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲1984年から85年まで製造され、希少価値も非常に高いスペチアーレモデル。グループBのホモロゲーションに沿い、308をベースに開発された。デザインはピニンファリーナが担当し、400ps、50.6kg-mを生み出す2855ccのV8エンジンを搭載していた。競技車両として開発されたもののレースに参戦することはなかったが、のちに288GTO Evoluzioneという特別なレースモデルが開発され、その開発で培ったノウハウがF40へと継承されていった。総生産台数は272台、日本への正規輸入は1台だけだったといわれている 1984年から85年まで製造され、希少価値も非常に高いスペチアーレモデル。グループBのホモロゲーションに沿い、308をベースに開発された。デザインはピニンファリーナが担当し、400ps、50.6kg-mを生み出す2855ccのV8エンジンを搭載していた。競技車両として開発されたもののレースに参戦することはなかったが、のちに288GTO Evoluzioneという特別なレースモデルが開発され、その開発で培ったノウハウがF40へと継承されていった。総生産台数は272台、日本への正規輸入は1台だけだったといわれている

フェラーリ史に燦然と輝く特別な1台

徳大寺 さて、今日のビンテージエッジは288GTOだったな。
松本 政治の中枢永田町にお店があるらしいです。巨匠は288GTOに乗ったことはありますか?
徳大寺 もちろんあるよ。箱根ターンパイクで。たしか1986年頃だったな。288GTOはグループBだから生産台数は200台ちょぼちょぼ。貴重な体験だったよ。
松本 で、どうでしたか?
徳大寺 そりゃ凄いよ。ターンパイクの早川料金所を出ると上り坂だろう。あれは傾斜8%はある上りだからけっこうきついんだよ。そこをモノともせずにグイグイ加速する。シフトアップしても恐ろしいほど加速するんで、さすがに怖くなったよ。
松本 巨匠でも怖いなんてことがあるんですね。確かに1200kgを切った車重で400馬力、トルクは50㎏-m以上ですから素人が手を出す車じゃないですね。
徳大寺 288GTOはコンペティティブなモデルだが、オリジナルの250GTOほどの戦歴があったわけじゃないんだ。グループBのレギュレーションは200台以上作った市販車をベースにすることだよな?
松本 そうですね。提案されたのが81年で盛んになったのは83年のWRCからですから、まさか86年で終了してしまうとはフェラーリも思ってもいなかったでしょう。その終了により行き場が無くなった市販スペシャルモデルこそ288GTOというわけですね。
徳大寺 そうだ。さて、お店はこの辺だろう。お? MC12があるぞ。
松本 ここがビンゴスポーツさんですね。本社は名古屋だそうです。
徳大寺 名古屋方面は車好きが多いからな。だから弩級のモデルが日本に留まってるんだけどな。
松本 巨匠、話を戻して、288GTOの話をもっと聞かせてください。
徳大寺 288GTOは308GTBに似ているが、308がV8エンジンを横に積んだのに対して288GTOは縦置きという大きな違いがある。左右に取り付けられたインタークーラーがエンジンフードから丸見えで、それがまたカッコいいんだな。性能だけでなく見た目のセンスの良さはさすがだよ。
松本 288GTOのデザインとエンジニアリングを手がけたのは、有名な“フィオラヴァンティ”ですからね。60年代後半から70年代、80年代とカロッツェリア・ピニンファリーナの黄金期を作り上げた人です。フィオラヴァンティは裕福な家に生まれて学生時代からピニンファリーナには慣れ親しんでいたそうですよ。
徳大寺 365GTBデイトナやBBを作った人なんだから、そりゃ才能はあるだろうな。しかも彼はエンジニアだから理論に基づき、歴史に残るモデルを作ることができるんだ。
松本 ピニンファリーナといえばスタイリッシュな風洞実験装置を思い出しますが、あれもフィオラヴァンティが提案実行したそうですよ。
徳大寺 1977年にフィオラヴァンティが提案した、308GTBベースにアルミのブリスターフェンダーをリベット留めしたというスパルタンなモデルがあるんだが、これが発想の基のような気がするよ。
松本 288GTOは巨匠がおっしゃったように縦置きにして運動性能を向上させていますが、まったく別物だと思うのはあのシャシーですよね。太い楕円のパイプを使ったラダーフレーム、この作り方を見るだけでもフェラーリの50年代からの要素が入っている感じがします。
徳大寺 インテリアは308と変わらない感じだけど、つや消しの素材がいかにもコンペティティブな感じだな。それと内装からは見えないけれどロールケージが入ってるんだよな。こういった処理がまた憎いんだよ。エクステリアのデザイナーがフィオラヴァンティ、フェラーリ側で指揮を振るったのはニコラ・マテラッツィだからね。かれはストラトスを作ったエンジニアだ。
松本 F40もマテラッツィが送り出したわけですから288GTOでできなかったことをもう一度洗い直して作ったのでしょうね。偉大なエンジニアが作ったモデルは決して埋もれることはないのですね。そういった車に乗れる、あるいは触れることができるのは幸せですね。
徳大寺 ほんとそうなんだよな。フェラーリのようなメーカーだからこういった才能ある人たちを使って採算など考えずに世に送り出せるんだよ。ところでこの288は異常に程度が良いな。新車みたいだよ。今見るとスマートでひと味もふた味も違う感じが漂ってる。フェラーリ自社製のトランスミッションが後ろから見えたりしてカッコいいし、サイドスリットは250GTOをオマージュした部分だろう。本物のモデルを見るといろいろなことがどんどん出て来るな。こういった素晴らしい車をたくさんの人に見てもらって車の素晴らしさを分かってほしいな。実際には買えない人が憧れるからスーパーカー。永田町の人はこれを眺められるんだ、幸せだよ。

フェラーリ 288GTO フロント
フェラーリ 288GTO リア7:3
フェラーリ 288GTO インテリア
フェラーリ 288GTO エンブレム
フェラーリ 288GTO リア

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:4290×1910×1120(mm)
■車両重量:1160kg
■ホイールベース:2450mm
■エンジン:V型8気筒DOHC
■総排気量:2855cc
■最高出力:400ps/7000rpm
■最高トルク:50.6kg-m/3800rpm

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2010年8月号(2010年7月9日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています