フェラーリ 12チリンドリ▲1950~1960年代の伝説的グランドツアラーからインスピレーションを得たというデザインをまとい、フロントミッドにV12自然吸気エンジンを搭載したフラッグシップ。ソフトトップを備えたスパイダーもラインナップする

グランドツーリングとピュアスポーツを高次元で両立

フェラーリ 12チリンドリ(「ドーディチ・チリンドリ」と発音)にルクセンブルクで試乗した。

排気量6.5LのV12自然吸気エンジンをフロントミッドシップした12チリンドリは、812スーパーファストの後継モデルとされる。だとすれば、パフォーマンスの点でもプレステージ性の点でも、フェラーリ・ロードカーの頂点に君臨するカタログモデルと捉えるのが、これまでの常識というもの。なにしろ、1947年にデビューしたフェラーリの名を冠した初のモデル「125S」にもV12自然吸気エンジンが搭載されていたほど、フェラーリとV12は切っても切れない関係にあるのだ。

そもそも、排ガス規制が厳しさを増す一方の現代に、V12自然吸気エンジンが生き長らえていること自体が奇跡に近い。ちなみに、過給器もハイブリッドも備えないV12エンジン搭載モデルを現在もラインナップしている自動車メーカーはフェラーリだけである。

しかし、ルクセンブルクで試乗した12チリンドリは、812スーパーファストとは明らかにキャラクターが異なっているように思えたのである。
 

フェラーリ 12チリンドリ▲デルタウイングシェイプと呼ばれる、ルーフの一部をブラックとした個性的なリアデザインを採用
フェラーリ 12チリンドリ▲運転席と助手席が個々のモジュールで構成され、ほぼ左右対称のデザインとなる

まず、そのスタイリングが812スーパーファストとは大きく異なる。

ハイパフォーマンスモデルであることがひと目でわかる812スーパーファストに比べると、1968年デビューの365GTB/4ベルリネッタにインスパイアされた12チリンドリのデザインは、ロングノーズ・ショートデッキの基本プロポーションこそ812スーパーファストと共通だが、そのエレガントで気品溢れるラインはまったくの別物といって構わない。また、デルタ・コンセプトと呼ばれる未来的なグラフィックを採用した点も、812スーパーファストとは大きく異なっている。
 

フェラーリ 12チリンドリ▲トランクリッドにはアクティブエアロを装備。アンダーボディも効率的にダウンフォースを発生するようにデザインしてされている

走り始めてからの印象も、812スーパーファストとは明確に異なっていた。

強固なボディが足回りからの衝撃を余すところなく受け止める812スーパーファストの乗り味は、そのダイナミックなハンドリング性能を考えれば極めて洗練されていて快適といって差し支えない。まるでバイオリンのように純粋で美しい響きのエグゾーストサウンドにしても、800psという途方もない最高出力のことを思えば、決して不当にうるさいとはいえなかった。

しかし、12チリンドリは、快適性の点でも静粛性の点でも812スーパーファストを格段に上回っている。

その乗り心地は、もはやスーパースポーツカーの概念を覆すほどしなやかで快適。仮に812スーパーファストが「ソリッドな足回りの感触を強固なボディでカバー」していたとすれば、12チリンドリはそもそも足回りから硬さが感じられないと表現したくなるほど。それでいてボディの剛性感は相変わらずなのだから、快適性は大幅に向上したというべきだろう。

しかも、ボディの姿勢変化は的確にコントロールされていて、機敏なハンドリングを一切、邪魔していない。そのことは、ルクセンブルク内のグッドイヤー・プルービンググランドで限界的な走行を試した際にも、明確に感じ取ることができた。このダイナミクスと快適性を両立させたフェラーリのシャシー・テクノロジーには目を見張るべきものがある。

同様のことはエンジンについてもいえる。V12エンジンが発する音量は、812スーパーファストよりもはっきりと小さい。それでも物足りなさを感じないのは、812スーパーファストよりもわずかに中音域を厚めの設定とした恩恵だろう。つまり、ここでもダイナミクスさと快適性が両立されているのだ。
 

フェラーリ 12チリンドリ▲最高出力830ps/最大トルク678N・mを発揮する6.5L V12自然吸気エンジンを搭載。0→100km/h加速2.9秒、最高速度340km/hとなる

今年4月にマラネロで行われた12チリンドリのスネーク・プレビューにおいて、フェラーリでチーフ・マーケティング&コマーシャル・オフィサーを務めるエンリコ・ガリエラは、12チリンドリについて「GTとピュアスポーツのちょうど中間に位置するモデル」と説明しながらも「両方の要素を採り入れた妥協の産物ではなく、GT性とピュアスポーツ性を高い次元でバランスさせたモデル」と説明していたが、まさにそのとおり。

その意味において、12チリンドリは「ピュアスポーツでありながら快適性にも配慮した812スーパーファスト」とは一線を画したモデルといって差し支えないだろう。
 

フェラーリ 12チリンドリ▲ボンネットとフロントフェンダーを一体化したスタイルを採用。ちなみに、ボンネットは「エンジンベイの眺めを堪能できるよう」にとフロントヒンジが採用されている
フェラーリ 12チリンドリ▲前後重量配分はフロント48.4%、リア51.6%。四輪独立操舵(4WS)も備える
フェラーリ 12チリンドリ▲メーターディスプレイをはじめ3つのディスプレイで構成されるHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を新たに導入
フェラーリ 12チリンドリ▲リサイクルポリエステルを65%用いたアルカンターラを採用するなど、最新モデルらしくサステナブルにも注力されている
文/大谷達也 写真/フェラーリ

先代モデルとなるフェラーリ 812スーパーファストの中古車市場は?

フェラーリ 812スーパーファスト

最高出力800psの6.5L V12自然吸気エンジンをフロントミッドに搭載した“フェラーリの本流”モデル。デザインは社内のスタイリングセンターが担当している。プラットフォームは共通ながら、ほとんどのパーツを一新しエアロダイナミクスなどを飛躍的に向上させた。リトラクタブルハードトップを備えたオープントップの812GTSもラインナップしている。

2024年9月下旬時点で、中古車市場には20台程度が流通。支払総額の価格帯は4200万~5600万円となる。オープンの812GTSは25台程度が流通している。
 

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文/編集部、写真/フェラーリ