リンカーンMKXはこれまでのアメリカンSUVと一味違う 【試乗by西川淳】
カテゴリー: リンカーンの試乗レポート
タグ: SUV
2008/11/25
高級SUVのコンパクト版がアメリカから上陸
SUVの本場と言えばアメリカ。そのアメリカで90年代後半以降、高級SUVというカテゴリーをナビゲーターという大型SUVで席巻したのが現代のリンカーンブランドだった。日本市場への導入は、02年に終了したサルーンのLS以来、久しく途絶えていたが、まずはナビゲーターで正規輸入が復活。その第2弾が、このMKXである。
5人乗りのミディアムサイズのSUVワゴン。いかにもアメリカンな雰囲気漂うスタイリングだが、サイズ的には日産ムラーノ(現行型)とほぼ同等、やや下回る。全長でやや短く、全幅は広くて1.9m超え、全高では同じくらい、というわけで、近寄ってみるとより踏ん張った印象が強く、大きく見えてしまうから面白い。兄貴分のナビゲーターがトラックベースの本格SUVであるのに対し、こちらは乗用車用プラットフォームを使っている(マツダとも共有)。厳密にはSUVではなくクロスオーバー車として分類されるものだ。
日本仕様はモノグレード。3.5LのV6+アイシン製6AT+電子制御4WDのみという仕様で、内外装色も黒×メイプルウッドに本革黒シートという1種類のみ。ただし、導入のタイミングでは限定20台で外装にライトブルー色が設定されていた。
最新リンカーンブランドのテーマは「モダン・アメリカン・ラグジュアリィ」。そのフラッグシップがナビゲーターというわけだが、弟分のMKXもかなりユニークなスタイリングで、ニューヨークの最新ビル街の賑わいにも似たモダニズムを強く感じる。リンカーンスターを真ん中に置いたクロームグリルやボディ幅いっぱいに光るリアLEDランプなど、日本でも都会の夜の街が似合いそう。ワンタッチで開閉可能なパノラミックビスタビューから眺める夜の景色は、さぞ楽しいことだろう。
インテリアも、これまでのアメリカ車のイメージとは180度違うものだ。ブラックを基調にまとめられ、デザイン的にはナビゲーターのテイストを上手く盛り込みつつ、上質な雰囲気に仕上がった。パイピングレザーのたっぷりとしたシート、明るいメイプルウッドとサテンシルバーやクロームのアクセントが映えるダッシュ回りなど、いかにも高級車らしい仕立てだ。ホワイトLEDのメーター照明も、夜のドライブを盛り上げる。左ハンドルの設定のみ。地デジフルセグ対応チューナー内蔵HDDナビを標準で装備。前後シートにヒーターが付く。後席は6:4の分割可倒式で、倒せば最大1945Lの積載スペースが現れる。
ナビゲーターほどの威圧感はないし、サイズ的にもそれほど大きくないはずだが、乗り込めばそれなりにアメリカンカーらしい“大地感”を覚える。横幅が広いから、助手席側のピラーが遠い。それでも、ひとたび動き出せば、ボディもしっかり引き締まっており、一体感ある走りを見せてくれるから、サイズを脅威に思う必要もなさそうだ。
ひとことで言って、乗用車ライクな走りを見せる。アメリカンSUVのまったりとした、いかにもハイトなタイヤを感じさせる走りとは全く違うものだ。出足の鷹揚さ、当たりのソフトさにのみ、“アメリカ車らしさ”が見受けられる。V6エンジンの性能は可もなく不可もなく。パフォーマンス的には何か突出して素晴らしい点がない代わりに、弱点らしい弱点も見当たらない。不快なロールもなく、高速道路でもフラットな走りに徹する。しばらく乗っていれば、個性的なアメリカンSUVを運転しているということすら忘れてしまうほどだった。
個人的には、静粛性の高さとシートの座り心地の良さに感動した。その個性的な外観やクールな内装とは裏腹に、走りは至ってフツー。アメリカンSUVにとっては、ある意味、褒め言葉かもしれない。