日産 スカイラインGT-R

あの車のデビュー当時を振り返る

創刊36年目(2020年1月現在)を迎えるカーセンサーが、過去の試乗記を発掘し、今あえて紹介していくシリーズ。

今回は、1989年月発売のカーセンサー Vol.108の記事「NEW CAR SENSOR」より日産 スカイラインGT-Rが1989年に登場したときの試乗レポートをWEB用に再構成してお届けする。

なお、本記事執筆者であり現在も活躍されているジャーナリストの石川さんより、当時を振り返りコメントをいただいたので、合わせてご覧になってほしい。

<石川さんのコメント>

ようやく発売されたGT-Rの注目度は凄かった。

試乗で街を流せば追っかけてくる車が次々と前や横に並ぶし、信号待ちでは歩行者が写真を撮ったりする。

注目される車に乗るというのも、自動車評論家の特権ではあるが、このGT-Rは凄かった。

思い出すのは試乗した直後に、ドイツでポルシェの技術者と話したこと。

GT-Rに乗ったことを知ったその技術者は同僚も呼び、その走りに関してしつこいほどに聞いてきた。

GT-Rが86年に登場したポルシェ959を参考にしたということを知っていた彼らは、その性能をすごく気にしていたのだ。


カーセンサー Vol.134 ▲今回は今から31年前に発行された、「カーセンサー Vol.108」より、日産 スカイラインGT-Rの試乗レポートをピックアップ!

無言でドライバーを威圧するエアロフォルム!!

ついにスカイラインGT-Rが発売された。

8月21日の発売時にすでに4500台以上のバックオーダーをかかえるという人気。

このGT-Rはツーリングカーレースに出場するために、最低5000台は生産しなければならないのだが、受注台数はそれを簡単にクリアしてしまった。

ニュースカイラインの発表のときに、その姿だけは見ることができたのだが、実車を野外で見るのはこの日が初めて。

テストは、日産の栃木テストコース(栃木プルービンググランド)の高速周回路と、総合評価路とよばれている一般公道に近いワインディングロードで行なった。こういう場所なら、思いきりGT-Rを楽しむことができる。

GT-Rの実車を前にしての印象は、ボディカラーがガングレーメタリックということもあり、ノーマルのGTよりも60mmも広いブリスターフェンダーは意外に目立たない。

ボディカラーはガンメタのほかに、シルバーメタ、ダークブルー、レッドメタ、ブラックメタの5色が選べるが、GT-R専用色はガンメタだけだ。

フロントバンパー上のグリルとエアダム一帯のバンパー、さらにリアの巨大なスポイラーとGT-Rのエンブレムが、ノーマルGTSとのポテンシャルの違いを強烈にアピールしている。

ついにGT-Rに乗ることができる、という期待のためか、胃が痛くなるような緊張感におそわれる。

こんなことはポルシェ 959に乗るときにもなかったのに。それだけスカイラインGT-Rというのは、特別な雰囲気と迫力を乗り手に感じさせる重みをもっているのだろうか。

日産 スカイラインGT-R ▲パドックにたたずむスカイラインGT-R。2Lより60mmも広げられたブリスターフェンダーと、大きく口を開けたバンパー下のエアインテークが迫力
日産 スカイラインGT-R ▲リアの巨大なスポイラーは、フロントの大型エアダムと相まって空力特性を高め、走行安定性を向上させる

レブリミット8000rpm!! 速度計は意味を失う

ドアを開けてドライバーズシートに座る。

体にフィットする形状のシートは、まるでオーダーメイドのシートのように体にすぐになじんだ。

ハンドルは超太めのスポーツタイプ。メーターは目の前に大径のスピードメーターとタコメーター。

スピードメーターは180km/hまでの目盛りだが、これは後でまったく意味をなさないことになる。スピードメーターの右には10000rpmまでのタコメーター。7600から8000までがイエロー、8000から上がレッドゾーンになる。

スピードメーターとタコメーターの両側には4個の小径メーターが付き、さらにセンターコンソール上にも3個のメーターが付く。とくにスピードメーターの左上のフロントトルクメーターが特徴的だ。

GT-Rはトルクスプリット型の4WDメカを採用。アテーサE-TSとよばれるこのメカは通常走行はリア駆動で、走行中にリアにかかる駆動トルクが大きくなり、リアタイヤのスリップ量が大きくなると、フロントにも駆動トルクを伝達する方式。

そのフロントへのトルクの配分具合を示すのがトルクメーターなのだ。

ミッションは5段MTだけ。クラッチはGTS-tより重く、280psと36.0kg-mの強烈なパワー/トルクを伝えるのにふさわしいスポーツ性を感じさせる。

イグニッションをひねり、いよいよ直6、2.6LDOHCツインターボのフィーリングを体験する。

日産 スカイラインGT-R ▲センターコンソールの3連サブメーターがレーシーな雰囲気を盛り上げる。センターにGT-Rのオーナメントが
日産 スカイラインGT-R ▲表皮一部にエクセーヌを使用したものフォルムバケットシート。サイドからショルダーにかけてのサポート性は秀逸である
日産 スカイラインGT-R ▲スカイラインにGT-Rのエンブレムが復活するのは1973年のケンメリことKPGC110以来16年ぶりのことだ

気絶するほどの加速G!! それを超える制動性能

クラッチを2000rpmぐらいでつなぎ、走り出す。テストコースなので、まわりの状況を気にすることもない。10mも走ったところでアクセルを床まで踏みつけた。

その瞬間、まったくタイムラグなしでGT-Rはまるで空母からテイクオフする戦闘機のような強烈な加速を開始したのだ。とくに4000rpmから上になると、その加速力は助手席の人間が貧血をおこしそうに凄い。

イエローゾーン手前の7000rpmまで回す。1速60km/h、2速105km/h、3速160km/h、4速ギアにシフトアップしてアクセルを踏み続けると、あっさりと180km/hを超え、スピードメーターの針は200km/hオーバーのあたりを示す。

テスト車は公道上ではないので、リミッターを外してあったのだ。そのまま5速にシフトアップして、加速を続けると、6000rpm、220km/hあたりを示した。

ちなみに180km/hの4速ギアでは6200rpm。比較用に乗ったGTS-tでは4速180km/hは7000rpmに達した。

最高速だけでなく、そこに到達するまでの瞬間が短いのがGT-Rの凄さ。0→100km/hは5秒台、0→180km/hは15~16秒なのだ。これはフェラーリ F40、フェラーリ テスタロッサ、ポルシェ 959の世界に近い。

もちろん高速走行でのボディの安定性は、これまでのどの国産車に比べても勝っている

トルクの太さも驚異的だ。5段ギアの4速で、60→80km/hの加速タイムが3.8秒。60km/h 4速ギアのエンジン回転数は2200rpmなのだが、この低回転域からの加速にもかかわらず、3秒台というのは、ちょっとライバルを思いつかない。

2.6LのDOHCツインターボは、低回転域でも実にトルクが太く、扱いやすいのだ。これならば街乗りで、乗りにくいということは、まったくないだろう。GT-Rがこんなに誰にでも、どこでも乗りやすくてよいのか、という気もするほどだ。

ブレーキはアルミキャリパー対向ピストンブレーキを採用。これはレースでの使用を考えてのこともあるが、それだけに高速からの反復使用にもまったくフェードすることなく、しかも路面から引き寄せられるかのように、直進性を乱すことなく減速する。

日産 スカイラインGT-R▲プレス形成されたストレートマフラーは低回転域では迫力ある太いサウンドだ。口径は70φとかなり大きめ
日産 スカイラインGT-R ▲インパネ左上部のフロントトルクメーターがトルクの伝達度を知らせてくれる
日産 スカイラインGT-R ▲GT-Rのマスターキーは白銅製の装飾タイプとなる。「R」の文字が際立つ

パワフルだが十分にコントローラブルな操舵感

高速走行での動力性能のレベルの高さは、十分にわかってもらえたと思う。そこで、次はワインディングロードで、ハンドリングのチェックだ。

このテストコースは、2、3速ギアを中心にしたコースなのだが、GT-Rの場合、3速でも160km/hは出るので、かなりハードな走りになる。

それにしても、いきなりワインディングロードを走り出し、加速をすると、周囲の流れに目がついて行かない。それほどにGT-Rの加速は強烈なのだ。

2速ギアで最初のコーナーに入る。電子制御パワーステアリングはかなり重め。十分に心構えをしていないとついて行けない。しかし、ハンドルに対しての車の動きは俊敏かつダイレクト。

コーナーに入ってからのGT-Rの安定感は、これまでの車と次元が異なるほどに安定している。ボディのロールは小さいし、車はアクセルを踏んでいれば、ハンドルを切った方向に素直に進んでくれる。

ドライバーは体に横G(それも強烈なやつ)を受け、それと戦いながらGT-Rを走らせる。

まるで自分の運転が、いままでより数倍上手になったかのように思えてくる。

4輪マルチリンクサスペンションと、スーパーHICAS、さらに電子制御トルクスプリット4WD(アテーサE-TS)の効果が、このコーナーでの超安定姿勢を生みだすのだ。とくに、サスペンションとスーパーHICASの威力はハイレベル。

トルクスプリット4WDの威力は、ドライ路面でふつうに走行しているときは、実はほとんど作動していないのだ。これがわかるのは、スピードメーターの右上にあるトルクメーターのおかげ。

走行中にこのメーターに視線をチラチラ走らせていると、メーターの針が動くのは直線でアクセルを目一杯踏みつけたときに、大きく動くほかは、ほんの少しだけしか動かない。

コーナリングのときも、ふつう(といってもかなり速い)に曲がっていればメーターは動かない。ということはフロントタイヤにトルクは伝わっていないわけだ。つまり、FRの状態でも、かなりレベルの高いコーナリングを行なっていることになる。

ただし、ふつうの走りより過激にリアをスライドさせる(これが280ps、36.0kg-mだから簡単と思うが、そうはいかない)と、フロントにトルクがかかる。しかし、225/50R16のポテンザRE71の踏ん張りもかなりなものだ。

リアがスライドしないまでもオーバースピード気味にコーナーに入ってしまったら、ドライバーは、ハンドルをコーナー出口の方向に切って、アクセルを踏み込むこと。

それにしても、GT-Rは2速で105km/h、3速で160km/hも出るので、一般公道のワインディングロードでは、3速全開なんて、とてもできるものではない。こうした超高速コーナー(アウトバーンには存在する)での走りも体験できた。

高速周回路のバンクを走らず平坦路部分を160~170km/hで走ってみた。このときのGT-Rの動きは、もちろん超安定の後輪トルクで走る。しかしハンドルはかなり重く、コーナーに合わせて切るのにも力を要した。

一方、本当のFR車GTS-tも同じスピードで走ることはできるのだが、ハンドルは軽いがその姿勢にいまひとつ安定感がないので、ドライバーはリアタイヤの動きに気をとられ、かなり緊張した。

日産 スカイライン ▲大排気量ながら8000rpmという高いレブリミットを実現したRB26DETT。6連スロットルチャンバーが目を引く

16年ぶりに復活した「R」
確かに超高性能だが……

2.6L、DOHCツインターボ、280ps、36.0kg-mのGT-Rは確かに、恐ろしいほど速いし、コーナーでの安定感も抜群。

しかし、かつてのGT-Rのイメージからは異なる方向をもつ車に仕上げられていた。

今回のGT-RはGTS-tの延長線上にあるビギナーでも乗れるハイパフォーマンスGTカーなのだ。

でも、できればGT-Rは、一部の特殊な人のための車にしてほしかった。最後のGT-Rが消えて16年。平成の時代に出てきたGT-Rは性格も変わってしまった。

しかも、性能上からは、価格の445万円は破格といえる。往年のファンがGT-Rの赤いエンブレムを目にしたとき、えもいわれぬ憧憬と羨望をいだくことだろう。

しかし、そのニューGT-Rの走りがあまりにもぎこちなく、しかも若葉マークでもついていようものなら、ひとりの人間の大事な夢を一瞬にして打ち砕くことになるだろう。GT-Rはこれで終わってしまうのだろうか。

日産 スカイラインGT-R ▲菅生サーキットで行われたグループA仕様のデモ走行。RE26DETTは550ps以上にまでチューンされ、迫力ある走りを披露した

スカイライン GT-R(BNR32)
新車時価格帯:430.5万~529万円
中古車価格帯:290万~1000万円
中古車流通量:100台



※上記は2020年2月14日現在のデータになります。

文/石川真禧照、写真/桜井健雄


※1989年発売のカーセンサー Vol.108の記事「NEW CAR SENSOR」をWEB用に再構成して掲載しております。