軽自動車だからこそ。クルマも、自分に合ったものを選ぶ|Carsensor IN MY LIFE


巷では「軽自動車なんてカッコワルイ」という声もある。だが、待ってほしい。クルマ選びで大切なのは、ファッション同様、「自分に似合っている」こと。むしろクルマのジャンルにとらわれず、個性や生活を反映したクルマに乗るなんてカッコイイじゃないか!トップスタイリストの中川直樹さん(29歳)は、そんなクルマ選びをした一人だった。

この物語は、取材で聞いた実話をベースにしたもの。クルマにまつわる、人間ドラマだ。

ドキドキするクルマ選びを自分に提案

「俺、独立するから!」

丸ノ内線の新中野から徒歩5分のところにある、ライブハウス「中野ムーンステップ」はインディーズで活躍するバンド「SPiKES」のパンクなフリークたちでゴッタ返していた。

「ぇえ、なあにいぃ?」

モッシュの中、妻の慶子が大きな声で聞き返した。

俺、独立する。もう一度繰り返したけれど、SPiKESが演奏する「STAND UP NOW」の鋭いシンバルに、その声はかき消された。

  君しかできないことをしろ♪
  君だけができることをしろ♪
  他の誰にも真似できないことをしろ、今♪
  STAND UP NOW♪

(SPiKESの「STAND UP NOW」より引用。作詞・作曲:kennosuke)

スズキ ジムニー

ヘアスタイリストになる。

きっかけは、かつてTBSで放送されていたテレビ番組『ジャスト』のコーナー「亭主改造計画」。カリスマ美容師が登場して、どこにでもいそうなお父さんをキラッキラのナイスミドルに変身させる企画だ。

まるでマジックだった。当時、中学生だった俺は衝撃を受けて、美容師になることに決めた。高校を卒業する際、親は「大学に行け」と言ったけれど、ゴールへの最短距離を目指して渋谷にある国際文化理容美容専門学校へ入学した。

学校で技術を習得するのは面白かった。一方で、ヘアスタイリストへの情熱は徐々に冷めていった。

トレンドを追うのがこの世界だ。しかし皆で同じトレンドを追うのを見て「これは本当に俺がやりたかったことか? 俺にしかできないことか?」と、迷いが生まれた。

トレンドから遠ざかるように、サブカルチャーの多様性に惹かれていった。授業がない日はスケートボードに夢中。時間を忘れてデッキを蹴った。あの日の夢も忘れたかのように。

スズキ ジムニー

そんなときだ。当時、流行っていたSNS『ミクシィ』で、SPiKESのリードボーカルであるケンノスケさんと知り合った。

「うちの店に来ないか?」

偶然だろうか、いや必然か? 普段、ケンノスケさんは都内に7店舗を構える「NEO PHILIA」でヘアスタイリストをしていた。

――即決した。

美容学校を出てNEO PHILIAに入店した俺は、情熱が再燃。再びこの世界に夢中になった。

初めてのお客さんの場合、そのときの第一印象を大切にする。髪の長さ、色、顔の形、肩幅、首の長さ、靴、持っている鞄……。

お客さんは印象をキープしたいのか、それともバッサリ変えたいのか。

変えたそうなとき、僕は提案する。お客さんの笑顔が生まれる瞬間を求め、僕にしかできない提案を。

スズキ ジムニー

地元へ戻って、自分の店を開くことにした。もっと自分らしい提案を求めた結論だ。SPiKESの活動を休止して、最近は熱いメッセージを弾き語りしているケンノスケさんもエールを送ってくれた。もちろん、妻の慶子にも相談した。彼女とはNEO PHILIAで知り合って結婚。独立にも賛成してくれた。

ちょうど中学時代からの親友が料理人として独立するタイミングだった。ヘアサロンとレストランを併設しよう! そんなアイデアがすぐにまとまった。

「倉庫を探してリノベーションしよう」

そこから倉庫探しが始まった。これが大変だった。そもそも倉庫があるようなところはクルマじゃないと、そうそう見て回れない。

スズキ ジムニー

「クルマ買おうと思うんだ」

地元では足としてクルマがなくては不便。1人1台が当たり前だ。とはいえ、なんでもいいというわけにはいかない。お客さんに売るのは技術だけじゃなく、ライフスタイルも提案するからだ。

「これ」

スマホにカーセンサーの物件を表示させて慶子に見せる。メルセデス・ベンツのGクラス。

「高くない? バカじゃないの?」

慶子は嫌味なく、そう言った。これから開店資金がかさむ。クルマが必要なのはわかるけど、いろいろとバランスも大事。彼女の言うことも、もっともだ。

「じゃあ、これは?」

かわいい! と慶子が取り上げたスマホに映っているのはスズキのジムニー。実はコレが本命。ずっと前から気になっていた。

「え、軽自動車なの?」

これなら私も運転できると、ペーパードライバーの慶子は食いついた。

スズキ ジムニー

ジムニーといっても最新型じゃない。欲しかったのは、もっと四角かった時代のジムニー。選んだのは1996年式のJA22W。14万km走っている中古車だ。

しかし、俺には苦い経験があった。学生の頃、ケチって安いだけの原付バイクを買った。これが故障続き。買うときは、シッカリとしたいいものを買わなきゃダメだと反省した。

ジムニーは信頼できるお店選びから始めて、コンディション重視で選んだ。リビルトエンジンに積み替えてもらって、レストアついでに自分好みのサンドベージュにオールペイント。決して安くはない。しかし、理想のジムニーに仕上がった。

スズキ ジムニー

ヘアスタイルが決まった日は気分がいい。自分好みの服を着て出かけるときは気分が上がる。誰だってそうだろう。

ジムニーで出かけるときの俺もまた、そんな気分だ。

それに、クルマはプライベートな空間を生み出してくれる。小さくたって関係ない。流れる景色を見ながら、好きな音楽をかけてドライブする。思いっきり声を出して歌っても平気。

人生初のマイカー。なんだか、クルマって楽しい!

スズキ ジムニー

小学生の頃、週末はボーイスカウトでいつも野外にいた。キャンプというより、野営。そんな習慣があったからアウトドアがやけに落ち着く。

ジムニーを買う前は、休みの日にカーシェアリングを利用してキャンプに出かけていた。キャンプ道具は少しずつ揃えていた。それらをジムニーの小さな荷室に積み込む。もうワクワクが止まらなかった。

キャンプに行ったって、すること、やることは同じだ。でも、ジムニーがあるだけで色濃く、鮮やかになる。

いつもはお客さんにスタイルを提案しているけれど、今回は自分にライフスタイルを提案。これがドンズバ。ヘアスタイルもライフスタイルも、個性は人生を豊かにする。

軽自動車だからこそ。クルマも、自分に合ったものを選ぶ

似合っていて意外性もある。これが理想かな


軽自動車が欲しかったのではない。自分のライフスタイルに合うクルマを探したら、それがたまたま軽自動車だった。背伸びはしたくないし、とはいえ「これでいいや」と無頓着になるのも違う。プチサプライズを狙ったわけではないけれど、友達から「お! これにしたんだ!」って表情されたら、気分も悪くない。

文/ブンタ 写真:杉田裕一[BGHE] スタイリング/柴山陽平 モデル/中川直樹 撮影場所/micca 下北沢店

CREDIT

MAN:タック入りチノパンツ9500円/ディッキーズ(ディッキーズ プレスルーム03-6434-1582)、バケットハット4900円/ハロン(アドナスト03-5456-5821)、ハイカットスニーカー1万6000円/ナイキ SB(ナイキ カスタマーサービス0120-6453-77)※Tシャツ&ロングスリーブカットソーはスタイリスト私物
MAN(倉庫):スーベニアジャケット7万1000円/リュシオル ジャンピエール(アドナスト03-5456-5821)※他すべてスタイリスト私物